アントニオ・サラザール

アントニオ・デ・オリヴェイラ・サラザール：ポルトガルの長期独裁者

アントニオ・デ・オリヴェイラ・サラザール（1889年4月28日-1970年7月27日）は、20世紀ポルトガルの歴史に深く刻まれた人物です。大学教授として名を馳せた後、首相の座に就き、ヨーロッパで最長の独裁体制の一つとされる「エスタド・ノヴォ（新国家体制）」を築きました。彼の生涯は、宗教的信念、政治的野心、そしてヨーロッパの歴史的転換期における複雑な駆け引きによって彩られています。

生い立ちと初期の経歴

サラザールはポルトガル北部の小地主の家に生まれました。幼少期は聖職者を志し神学校で学びましたが、リスボンでの僧侶過剰を理由に還俗、コインブラ大学で法学を専攻し、1916年には経済学の学位を取得しました。

学者としてのキャリアと政治への転身

大学では政治[[経済学]]の教授として人気を博し、多くの学生を集めました。反カトリック的な共和政府への不満から、新聞への寄稿などを通してカトリック教会の擁護に努めました。この時期、フランスのアクション・フランセーズの影響を受けたと言われています。

1917年には共和政府から大臣への就任を要請されましたが、これを拒否。その後、右派政党から議員に選出されましたが、短期間で辞職しています。1928年、カルモナ大統領の要請により財務大臣に就任。緊縮財政、デフレ政策を断行し、財政危機からの脱却に成功しました。この手腕が認められ、1932年には首相に昇格しました。

エスタド・ノヴォ体制の確立と独裁政治

首相に就任したサラザールは、右派連合を基盤としながらも、穏健派を登用し、過激派は抑圧しました。熱心なカトリック信者でありながら、政教分離を維持しつつ教会との良好な関係を保ち、教会は彼の強力な支持基盤となりました。

1933年には新憲法を制定し、「神、祖国、そして家族」をスローガンに掲げる「エスタド・ノヴォ」を宣言、長年にわたる独裁体制を確立しました。この体制は社会の安定を重視し、秩序と安定を回復することで国民の支持を得ました。教育面では初等[[教育]]に力を入れた一方、高等教育への投資は限定的でした。

ドイツとイタリアから顧問を招聘し、ゲシュタポをモデルとした秘密警察、PIDE（国家防衛警察）を創設。共産主義者、社会主義者、自由主義者など反体制勢力への弾圧を強化しました。経済的にはコルポラティズム（職能別組織）体制を構築し、教会、軍部、地主層などを支持基盤としていました。

第二次世界大戦と中立政策

第二次世界大戦では中立を宣言しました。これは、枢軸国側に付くことでイギリスからの植民地攻撃、連合国側に付くことでポルトガル本土への攻撃を受けるリスクを避けるためでした。しかし、連合国と枢軸国双方に軍需物資を輸出するなど、巧妙な外交を展開しました。1943年にはアゾレス諸島を連合国に基地として提供しました。

スペインとの友好不可侵条約であるイベリア条約を締結し、イベリア半島を戦火から守りました。また、ポルトガルは多くの亡命者の避難場所となり、ドイツの反ユダヤ主義に反対したことでユダヤ人コミュニティからの支持も得ました。

戦後と植民地戦争

戦後もエスタド・ノヴォ体制は存続し、マーシャル・プランによる援助を受けました。NATO、国連、EFTAへの加盟を果たし、東西冷戦構造の中で反共主義的な立場を維持しました。

しかし、1960年代に入ると、アフリカ諸国の独立運動が本格化しました。アンゴラ、モザンビークなどポルトガル領アフリカでの独立戦争が勃発、国家予算の多くが軍事費に充てられることとなり、ポルトガルの財政を圧迫しました。

晩年と死

1968年、事故により健康を害したサラザールは、首相を解任されました。その後も官邸にとどまり、周囲の配慮から自らの失脚に気付くことなく余生を過ごしました。1970年、肺塞栓症により死去。3日間の国葬の後、故郷に埋葬されました。

人物像と評価

サラザールの私生活は謎に包まれていましたが、孤独を好み、数人の女性と関係を持っていたと言われています。

彼の政治姿勢や外交手腕は、内外から様々な評価を受けました。一部からは独裁者として批判されましたが、一方で、財政再建や中立政策、そして国家の統一などに貢献した点も高く評価されています。彼の功績と残した課題は、現代においても議論の的となっています。

フィクションにおけるサラザール

ハリー・ポッターシリーズの登場人物「サラザール・スリザリン」は、サラザール・オリベイラをモデルにしていると、J・K・ローリングは語っています。

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