アントニオ・サンチェス

アントニオ・サンチェス：革新的なジャズドラマー、作曲家

アントニオ・サンチェス（Antonio Sánchez、1971年11月1日 - ）は、メキシコシティ出身のアメリカ人ジャズドラマー、作曲家です。その卓越した技術と音楽性は、現代ジャズ界において独自の地位を確立しています。

生い立ちと教育

5歳でドラムを始めたサンチェスは、10代の頃にはプロとして活動を開始。メキシコ国立音楽院でクラシックピアノの学位を取得後、アメリカのバークリー音楽大学でジャズを学びました。さらに、ニューイングランド音楽院でジャズ・インプロヴィゼーションの修士号を取得しています。著名な俳優イグナシオ・ロペス・タルソを祖父に持つことでも知られています。

キャリア

パット・メセニーとの共演

サンチェスの名声を高めたのは、ジャズギタリスト、パット・メセニーとの共演です。恩師であるダニーロ・ペレスの推薦で、ディジー・ガレスピーの国連オーケストラに参加。その後、ペレスのアコースティック・トリオに加入し、グラミー賞にノミネートされたアルバム『マザーランド』のレコーディングに参加しました。この活動を通じて、パット・メセニーの目に留まり、オーディションを経てパット・メセニー・グループのドラマーに迎えられました。

同グループでは、『スピーキング・オブ・ナウ』（グラミー賞受賞）と『ザ・ウェイ・アップ』の2枚のアルバムを制作。メセニーのカルテットやトリオにも参加し、2008年にはパット・メセニー・トリオとしてアルバム『デイ・トリップ』を発表、高い評価を得ました。2012年には、パット・メセニー・ユニティ・バンドのアルバムにも参加しています。

ソロ活動

2006年、サンチェスはニューヨーク大学（NYU）の教員に就任。翌年には、初のソロ・アルバム『マイグレーション』をCAM Jazzからリリースしました。パット・メセニー、チック・コリア、クリス・ポッターなど、豪華なゲストが参加したこのアルバムは、All About Jazz誌で「2007年最高のデビュー作品のひとつ」と評されました。サンチェスは、「ドラマーのアルバムとしてではなく、あらゆる楽器奏者による音楽として聴いてほしかった」と語っています。

2010年には、2枚目のソロ・アルバム『ライヴ・イン・ニューヨーク・アット・ジャズ・スタンダード』を発表。ミゲル・ゼノン、デヴィッド・サンチェス、スコット・コリーらとのライブ演奏を収録した2枚組のアルバムは、高い評価を受けました。2013年には、3枚目のソロ・アルバム『ニュー・ライフ』をリリース。タナ・アレクサ、デヴィッド・ビニー、ダニー・マッキャスリンらが参加し、オリジナル曲を披露しています。

映画『バードマン』の音楽

2014年、サンチェスはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の映画『バードマン あるいは（無知がもたらす予期せぬ奇跡）』のオリジナル・スコアを担当。ドラムソロを主体とした革新的なサウンドトラックは、大きな話題を呼びました。このスコアは、ゴールデングローブ賞と英国アカデミー賞にノミネートされ、放送映画批評家協会賞とサテライト賞を受賞。しかし、クラシック音楽も多用されていたため、アカデミー作曲賞の対象とはなりませんでした。

近年の活動

2017年のアルバム『バッド・オンブレ』は、グラミー賞の最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムにノミネート。2019年以降も、パット・メセニーのバンドに参加し、ツアーやアルバム制作を続けています。

プレイスタイルと使用楽器

サンチェスのドラム演奏は、高度なテクニックと豊かな音楽性に裏打ちされています。特に、複雑なリズムパターンとポリリズムを駆使したソロ演奏は、聴く者を圧倒します。使用楽器は、ヤマハのドラム、レモのドラムヘッド、ジルジャンのシンバルとスティック、LPパーカッションです。

アントニオ・サンチェスは、ジャズの伝統を尊重しながらも、常に新しい表現を追求する革新的な音楽家です。彼の音楽は、ジャズファンのみならず、幅広い音楽愛好家を魅了し続けています。

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