ジルジャン

ジルジャン：シンバルの歴史と革新

ジルジャン（Zildjian）は、世界的に有名なシンバルブランドであり、その歴史は400年にも及びます。創業は17世紀初頭、オスマン帝国の首都コンスタンチノープル（現在のトルコ・イスタンブール）で、アルメニア人のアベディス1世がシンバル製造を始めたことに端を発します。今日、ジルジャンはアメリカ合衆国マサチューセッツ州に拠点を置くアヴェディス・ジルジャン社によって製造されており、世界最大のシンバルおよびドラムスティックメーカーとしての地位を確立しています。

ジルジャンの起源

1618年、アベディス1世は独自の合金技術を開発し、錫、銅、銀などを組み合わせた新しいシンバルを製造しました。1623年には、皇帝からシンバル製造の公式認可を得て、ジルジャンのシンバルはヨーロッパでも高い評価を受けるようになりました。しかし、17世紀から18世紀にかけてのジルジャン家の歴史に関する詳細な記録は、火災などで失われており、その多くが不明瞭です。

KジルジャンとAジルジャンの誕生

1865年、アベディス2世の死後、その弟ケロップがシンバル製造技術を継承し、「K.ZILDJIAN&Cie（Kジルジャン社）」としてコンスタンチノープルでシンバル製造を開始しました。これがKジルジャンの始まりです。一方、ケロップは、本来の継承者であるアベディス2世の長男がシンバル製造を嫌ったため、次男のアラムに技術を継承させ、「A.ZILDJIAN&Cie（Aジルジャン社）」として、やはりコンスタンチノープルで製造を開始しました。

1909年にケロップが亡くなると、その娘婿ミカエル・ジルジャンが後を継ぎ、コンスタンチノープルでのKジルジャンシンバルの製造が継続されました。これにより、ジルジャンは「Aジルジャン」（トルコA）と「Kジルジャン」（トルコK）の2つのブランドに分かれました。トルコ共和国成立後、ブランド名は「K ZILDJIAN&Cie CONSTANTINOPLE」から「K ZILDJIAN&Co ISTANBUL」に変更され、ジルジャンの姓もトルコ語風にZilcijanと綴られるようになりました。

アメリカへの進出

1927年、アラムは次の継承者を探し、本来の継承者であるアベディス3世に手紙を書きました。1929年、アベディス3世はアメリカに渡り、マサチューセッツ州クインシーで「AVEDIS ZILDJIAN（アベディス・ジルジャン社）」（アメリカAジルジャン社）を設立しました。これにより、ジルジャンのブランドは、トルコのKジルジャンとアメリカのAジルジャンの2つとなりました。アメリカAジルジャン社は、アメリカで様々な規格のシンバルを開発し、今日のドラムセットで使用されるシンバルの基礎を築きました。そのシンバルはジャズやロックなどのアメリカ発の音楽とともに世界中に広がりました。

1968年には、アベディス3世の次男ロバートが責任者となり、カナダに新工場「AZCO（カナダAジルジャン社）」が設立されました。

トルコKジルジャンの終焉と近況

1970年代、Kジルジャン社はアメリカAジルジャン社に買収されました。1977年、アベディス3世は長男アーマンドを社長に任命し、同時に新しいジルジャンロゴが導入されました。また、この年にトルコのKジルジャン工場は閉鎖され、カナダ工場に統合されました。1865年から続いたトルコKジルジャンの歴史に幕が閉じられました。

1978年、トルコ製Kジルジャンの使用は禁止され、Kジルジャンブランドの製造はカナダ工場で行われるようになりました。トルコに残った職人たちは1980年に「イスタンブール・シンバル社」を設立し、その流れを汲むシンバル工場が現在では数社に分かれています。

1979年にアベディス3世が亡くなった後、会社は長男アーマンドと次男ロバートに分割されました。1981年にはロバートのカナダ工場が独立し、「SABIAN（セイビアン社）」となりました。セイビアン社は、カナダK製造時代の流れを汲むHH（ハンド・ハンマード）シリーズを製造販売し、アメリカAジルジャン社はビッグKロゴ入りのKジルジャンシンバルを製造販売しました。

2002年にアーマンドが亡くなった後、ジルジャン社はアーマンドの娘であるクレーギーとデビーによって経営されています。

ジルジャンの系譜

ジルジャンの歴史は、トルコ、アメリカ、カナダと場所を変えながら、以下のように展開してきました。

トルコ工場：『Aジルジャン社』（1623〜1865）→『Kジルジャン&Cie社』（1865〜1977）→『イスタンブール社』（1980〜現在）
トルコ→ルーマニア工場：『Aジルジャン&Cie社』（1909?〜1927?）
アメリカ工場：『アメリカAジルジャン社』（1929〜現在）
カナダ工場：『AZCO（カナダAジルジャン社）』（1968〜1981）→『セイビアン社』（1981〜現在）

現行製品ライン

ジルジャンの製品は、ドラムセット向け、オーケストラ向け、その他に分かれています。

ドラムセット向け

B20キャスト・ブロンズ製：K Constantinople, Kerope, K Custom, K Zildjian, A Avedis, A Custom, A Zildjian, Z Custom
B12シート・ブロンズ製：S Zildjian, S Dark
B8シート・ブロンズ製：I Family
ブラス製：Planet Z
その他：FX（エフェクト・シンバル）、L80 Low Volume（消音シンバル）

オーケストラ、ドラム・コー向け

B20キャスト・ブロンズ製：K Constantinople Orchestral, K Symphonic, A Zildjian Classic Orchestral, A Zildjian Symphonic Tone, A Zildjian Concert Stage, A Zildjian Stadium, A Zildjian Z-MAC
B12シート・ブロンズ製：S Band
B8シート・ブロンズ製：I Band
ブラス製：Planet Z Band

主なエンドーサー

ジルジャンは多くの著名なドラマーに愛用されており、そのリストは公式ウェブサイトに掲載されています。

関連項目

セイビアン：ジルジャンから独立したブランド
パイステ：別のシンバルブランド

外部リンク

Zildjian.com

ジルジャンは、400年の歴史の中で、シンバルの製造技術を革新し続け、世界中の音楽シーンを支えています。その歴史と伝統は、現代の音楽文化に深く根付いています。

もう一度検索