アントン・ザイドル

アントン・ザイドル：ワーグナーを継承し、新世界を拓いた指揮者

アントン・ザイドル（1850年5月7日 - 1898年3月28日）は、ハンガリーに生まれ、19世紀後半にヨーロッパとアメリカで活躍した著名な指揮者です。彼は、リヒャルト・ワーグナーの薫陶を受け、その音楽的遺産を広めることに大きく貢献しました。

バイロイトでの出会いとワーグナーとの関係

ザイドルは、1870年にライプツィヒ音楽院に入学し、音楽の基礎を築きました。1872年、彼の人生を大きく変える出来事が起こります。バイロイト音楽祭で、ワーグナーの浄書係（コピスト）に選ばれたのです。彼は『ニーベルングの指環』の最初の浄書作成を手伝い、ワーグナーの音楽に深く魅了されました。1876年の第1回バイロイト音楽祭にも参加し、ワーグナーとの親交を深めました。

ヨーロッパでの成功

ワーグナーの推薦状を得たザイドルは、1870年代後半から指揮者としてのキャリアを本格的にスタートさせます。ライプツィヒ市立劇場の指揮者として、その才能を発揮し、1882年までその地位を務めました。その後、興行主アンゲロ・ノイマンの一座に加わり、『ニーベルングの指環』の移動公演を指揮しました。ザイドルの指揮は評論家からも高く評価され、1882年6月にはロンドンのハー・マジェスティーズ・シアターで公演が行われるほど、芸術的な成功を収めました。

アメリカでの活躍と突然の死

1883年、ザイドルはノイマンと共にブレーメンに移りましたが、2年後にはニューヨークのドイツ・オペラ・カンパニーに移籍し、レオポルト・ダムロッシュの後任として指揮者を務めることになりました。同年には結婚もしています。1891年には、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者に就任し、アメリカの音楽界でも重要な存在となりました。しかし、1898年3月28日、47歳という若さで急逝しました。死因は食中毒とされています。

ドヴォルザークとの交流と『新世界交響曲』初演

ザイドルは、アントニン・ドヴォルザークとも親交があり、1893年にはドヴォルザークの代表作である交響曲第9番『新世界より』をニューヨークで初演しました。この初演は大成功を収め、ドヴォルザークの名声を高めるきっかけとなりました。

グリーグ作品の編曲と『抒情組曲』

ザイドルは、エドヴァルド・グリーグの音楽にも関心を持ちました。『抒情小曲集』第5集から4曲を選び、『ノルウェー組曲』として管弦楽編曲を行いました。ザイドルの死後、グリーグ自身がこの編曲を基に選曲と編曲をやり直し、『抒情組曲』が生まれました。しかし、ザイドル編曲版から『抒情組曲』では外された「鐘の音」は、現在でも単独で演奏されることがあります。

アントン・ザイドルは、ワーグナーの音楽を広め、ドヴォルザークやグリーグといった同時代の作曲家の作品を紹介するなど、19世紀の音楽界に大きな足跡を残しました。

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