抒情小曲集

グリーグ『抒情小曲集』：ピアノ音楽の宝石

エドヴァルド・グリーグの『抒情小曲集』（Lyriske stykker）は、1867年から1903年にかけて作曲された、全66曲からなるピアノ曲集です。全10集に分かれており、各集には6～8曲が収録されています。グリーグの音楽的特徴が凝縮された作品群であり、親しみやすい旋律と、北欧の民族音楽の影響を感じさせる独特の作風が魅力です。

各曲集の特徴

第1集 作品12（1867年出版）

初期の作品であり、グリーグらしさが既に発揮されています。音形は比較的単純で、技巧的にも難易度は高くありません。

アリエッタ: ゆったりとしたテンポで始まる変ホ長調の曲。後に『余韻』として再び登場します。
ワルツ: 単純ながらもグリーグらしい味わいを持つ曲です。
夜警の歌: シェイクスピアの『マクベス』から霊感を受けた作品。中間部は「夜の精たち」と題され、和音がラッパの音を模倣しています。
妖精の踊り: リズミカルで軽快な曲です。
民謡: 素朴な旋律が印象的な曲です。
ノルウェーの旋律: 民族的な雰囲気を持つ曲です。
アルバムの綴り: 短く親しみやすい曲です。
祖国の歌: 短いながらも堂々とした雰囲気を持つ曲。男声合唱にも編曲されています。

第2集 作品38（1883年出版）

第1集から16年の隔たりがあり、ピアノ協奏曲や『ペール・ギュント』の音楽で名声を確立した後の作品です。ピアノや歌曲、室内楽作品を中心に手がけるようになった時期の作品です。

子守り歌: 静かで美しい作品。ト長調の主部と、ト短調の中間部との転調が絶妙です。
民謡: ホ短調の軽快な舞曲風の曲です。
メロディ: 美しい旋律を持つ曲です。
ハリング（ノルウェー舞曲）: リズム感のある民族舞踊曲です。
飛びはね踊り: スプリング・ダンスとも呼ばれる、ノルウェーの舞曲です。
エレジー: 悲しげな雰囲気を持つ曲です。
ワルツ: ホ短調のワルツです。
カノン: 左右の手による対旋律が特徴的な曲です。

第3集 作品43（1886年出版）

全体的に春の喜びに溢れた曲集です。

ちょうちょう（蝶々）: 細かい音列が蝶の飛翔を表現する、優美な曲です。
孤独なさすらい人: 寂しげな旋律を持つ曲です。
故郷にて: 穏やかな雰囲気の曲です。
小鳥: 小鳥のさえずりを模倣した、軽快な曲です。
愛の歌: 甘美な旋律が魅力的な曲です。
春に寄す: リズム感が特徴的な、春の喜びを歌う曲です。

第4集 作品47（1888年出版）

他の曲集と重複する名前の曲が見られます。

即興的ワルツ: 即興的な要素を持つワルツです。
アルバムの綴り: 短く親しみやすい曲です。
メロディ: 美しい旋律を持つ曲です。
ハリング: リズム感のある民族舞踊曲です。
メランコリー: 憂鬱な雰囲気を持つ曲です。
飛びはね踊り: ノルウェーの舞曲です。
悲歌（エレジー）: 悲しげな雰囲気を持つ曲です。

第5集 作品54（1891年出版）

『抒情小曲集』の中心となる、完成度の高い曲集です。最初の4曲は『抒情組曲』として管弦楽に編曲されています。

羊飼いの少年: 憂いを帯びた旋律が特徴的な曲です。
ノルウェーの農民行進曲: リズミカルな行進曲です。
小人の行進: 茶目っ気のあるトロルの行進をイメージした曲です。
夜想曲: 静かで美しい夜の雰囲気を持つ曲です。
スケルツォ: 軽快でユーモラスな曲です。
鐘の音: 実験的な響きを持つ曲です。

第6集 作品57（1893年出版）

フランスの保養地で作曲された、祖国への郷愁とヨーロッパ的なスタイルが同居する曲集です。

過ぎ去った日々: 過去を回想するような雰囲気を持つ曲です。
ガーデ（ゲーゼ）: デンマークの作曲家ニルス・ゲーゼを追悼する曲です。
幻影: 幻想的な雰囲気を持つ曲です。
秘密: 神秘的な雰囲気を持つ曲です。
彼女は踊る: リズミカルで軽快な曲です。
郷愁: ノルウェーの山峡の山羊笛の音を模した旋律を持つ曲です。

第7集 作品62（1895年出版）

トロルドハウゲンで作曲された、グリーグ後期の繊細で洗練された自然美が描かれた曲集です。

風の精: 風の精をイメージした軽やかな曲です。
感謝: 静かで穏やかな雰囲気を持つ曲です。
フランス風セレナード: 優雅な雰囲気を持つ曲です。
小川: 小川のせせらぎをイメージした曲です。
夢想: 夢見るような雰囲気を持つ曲です。
家路: 家路を急ぐ様子を描いた曲です。

第8集 作品65（1897年出版）

バラード調の曲が多い曲集です。

青春の日々から: 哀愁を帯びたメロディと、躍動的な中間部が特徴的な曲です。
農民の歌: 素朴な旋律を持つ曲です。
憂うつ: 憂鬱な雰囲気を持つ曲です。
サロン: 親しみやすい雰囲気を持つ曲です。
バラード調で: バラードのような雰囲気を持つ曲です。
トロルドハウゲンの婚礼の日: 全曲中最も大規模で人気のある曲。管弦楽編曲もされています。

第9集 作品68（1899年出版）

2～3分の小曲ばかりの曲集です。

水夫の歌: 快活な雰囲気の曲です。
おばあさんのメヌエット: 軽快で動きの激しいメヌエットです。
あなたのそばに: ロマンティックで甘美なメロディを持つ曲です。
山の夕べ: 山羊笛を模倣した旋律が特徴的な曲です。
ゆりかごの歌: 静かで穏やかな雰囲気を持つ曲です。
憂うつなワルツ: 憂鬱な雰囲気を持つワルツです。

第10集 作品71（1901年出版）

20世紀に入ってから作曲された曲集。

昔々: スウェーデン民謡とノルウェー舞曲を組み合わせた曲です。
夏の夕べ: ノルウェーの夏の夕暮れを美しく描いた曲です。
小妖精: 駆け回る妖精をイメージした曲です。
森の静けさ: 静かで落ち着いた雰囲気を持つ曲です。
ハリング: リズム感のあるノルウェーの舞曲です。
過去: 半音階下降が印象的な、曲集の終わりを告げる曲です。
余韻: 第1集第1曲のアリエッタをワルツに変奏した曲です。

演奏について

『抒情小曲集』は、多くのピアニストによって録音されており、その演奏は多岐にわたります。
ユハニ・ラゲルスペッツ、ホーカン・アウストボ、ダニエル・アドニ、ゲルハルト・オピッツ、エヴァ・クナルダール、舘野泉、アイナル・ステーン＝ノックレベルグ、フローリアン・ヘンシェル、エヴァ・ポブウォツカ、アルド・チッコリーニなど、著名なピアニストたちが全曲録音に挑戦しています。

管弦楽編曲

グリーグ自身によるものに加え、他の作曲家による管弦楽編曲も多く存在します。

グリーグ自身は、第5集から4曲を『抒情組曲』として、第9集から2曲を『2つの抒情的小品』として編曲しました。
第8集の「トロルドハウゲンの婚礼の日」は、様々な編曲版で演奏されています。
アントン・ザイドルによる第5集の「鐘の音」の編曲も有名です。
エルンスト・リーゲによる8曲の編曲や、リハルト・レインヴォスによる12曲の編曲もあります。

『抒情小曲集』は、ピアノ音楽の愛好家だけでなく、クラシック音楽ファンにとっても魅力的な作品群です。グリーグの音楽の世界を、ぜひ楽しんでみてください。

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