アンドレアス・グリューフィウス

アンドレーアス・グリューフィウス：三十年戦争を生きたバロックの詩人・劇作家

アンドレーアス・グリューフィウス（Andreas Gryphius, 1616年10月2日 - 1664年7月16日）は、17世紀バロック期を代表するドイツの詩人であり、劇作家です。三十年戦争という動乱の時代を背景に、人間の儚さや世の中の無常観、厭世的な人生観をテーマとした作品を数多く残しました。

生涯：戦乱と遍歴の中で育まれた教養

グリューフィウスは、1616年にシュレジエン地方のグローガウ（現ポーランド領グウォグフ）で、助祭長の息子として生まれました。幼い頃に両親を亡くし、継父と継母のもとで育ちます。三十年戦争の戦火を逃れてフラウシュタット（現ポーランド領ウショワ）へ移り住み、ダンツィヒの学術ギムナジウムで学びました。

その後、準爵士ゲオルク・シェーンボルの家で家庭教師を務めながら、1638年から約6年間、オランダのライデン大学で学びます。シェーンボルの息子たちの遍歴旅行に同行し、ハーグ、パリ、マルセイユ、フィレンツェ、ローマ、ヴェネツィアなどヨーロッパ各地を巡りました。この間に法学、医学、地理学などを学び、ギリシャ語、ラテン語、ヘブライ語、フランス語など10以上の言語を習得したと言われています。

1649年にロジーナ・ドイッチュレンダーと結婚し、4人の息子と3人の娘をもうけました。1650年からはグローガウで領邦等族のための法律顧問として働き、1662年にはザクセン＝ヴァイマール公ヴィルヘルム4世によって、国語浄化協会「結実結社」のメンバーに迎えられました。

作品：ヴァニタスの精神と演劇への貢献

グリューフィウスの作品は、三十年戦争によるドイツの荒廃と、それに対する嘆きを主題としています。その根底には、現世への絶望や無常観、死後にのみ平安を見出そうとする厭世的な人生観がありました。これはバロック時代に共通する時代精神であり、ラテン語で「ヴァニタス（虚栄・無意味）」と呼ばれています。

1637年に発表した最初のソネット詩集『リッサー・ソネッテン』には、すでに「全ては虚栄」という詩があり、ヴァニタスの雰囲気が漂っています。1639年の『日曜祭日ソネット集』は、マルティン・オーピッツの『ドイツ詩学の書』の影響を受けており、アレクサンドリーナー詩形が用いられています。有名な詩『祖国の涙 1638年』では、戦争によって失われた財産だけでなく、人々の心の荒廃を嘆き、反戦のメッセージを発信しています。

劇作家としては、バロック時代のドイツ語による芸術演劇の基礎を築き、「シュレジエン芸術劇」と呼ばれるジャンルを確立しました。悲劇『レオ・アルメニウス　または君主の死』(1647-1648年）は、殉教と暴君の死を題材とした作品で、五幕構成や場の転換、古代ギリシャ演劇に倣ったコーラスなど、形式的な特徴を備えています。この作品は、その後のドイツ演劇に大きな影響を与えました。

その他、『カタリナ・フォン・ゲオルギーン または守られた誠実』『暗殺された王 またはカロルス・ストゥアルドゥス』『高潔な学者 または死にゆくエーミリウス・パウルス・パピニアヌス』などの悲劇も残していますが、今日ではほとんど上演されていません。

喜劇作品としては、イタリアの即興劇に影響を受けた風刺劇『ホリビリクリブリファックス・トイッチュ　愛人選び』(1647-1650年）があります。また、「嘲弄劇」と呼ばれる喜劇『不条理喜劇 またはペーター・ゼクヴェンツ』も彼の作であるとされていますが、確証はありません。

グリューフィウスの作品は、三十年戦争という時代背景の中で、人間の弱さや儚さを描き出し、現代にも通じる普遍的なテーマを扱っています。彼の詩や戯曲は、バロック文学の重要な遺産として、今日でも評価されています。

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