アンドロメダを解放するペルセウス (ルーベンス、絵画館)

『アンドロメダを解放するペルセウス』について

ピーテル・パウル・ルーベンスが1620年から1622年にかけて制作した『アンドロメダを解放するペルセウス』は、バロック美術を代表する作品の一つです。この絵画は、オウィディウスの『変身物語』に登場する英雄ペルセウスが、海の怪物に生贄として捧げられようとしていたアンドロメダを救出する場面を描いています。ルーベンスは、この神話的な物語を、力強い筆致と鮮やかな色彩でドラマチックに表現しました。

主題

物語は、エチオピア王妃カッシオペイアが、自身の美しさを海の女神ネレイスたちよりも優れていると自慢したことに始まります。これに怒った海神ポセイドンは、海の怪物を送り込んで国土を荒らし、さらに王女アンドロメダを怪物への生贄にすることを要求しました。岩に縛られたアンドロメダを救ったのが、英雄ペルセウスでした。メドゥーサ退治を終えたペルセウスは、空から舞い降りてアンドロメダに恋をし、怪物を退治して彼女を救い出したのです。

作品の特徴

ルーベンスは、この絵画の中で、ペルセウスがアンドロメダを解放する瞬間を描いています。怪物はすでに退治されており、画面左端にはその死骸が横たわっています。ペルセウスは黒い甲冑と深紅のマントを身につけ、力強くアンドロメダの縄を解き放っています。一方、アンドロメダはほとんど何も身につけておらず、うつむきながらも、解放された喜びを表しています。彼女の姿は、頬を赤らめ、自由になった右手で下肢を覆うという、繊細な表現で描かれています。

画面には、アンドロメダの解放を手伝うプットや、有翼の馬ペガソスも描かれています。プットたちはペガソスを操り、画面に動きと活気を与えています。ルーベンスは、オウィディウスの物語を基にしながらも、怪物との戦いの場面を省略し、ペルセウスとアンドロメダの出会いと解放の場面をより強調しました。そして、これらの場面を、怪物の死骸からペルセウスとアンドロメダの出会いという時系列で、画面左から右へとドラマチックに展開させています。

ルーベンスは、ペルセウスにダイナミックな身体の動きを与えるとともに、アンドロメダを明るい光の中で繊細に描き出すことで、2人の関係性とその愛の高揚感を表現しています。また、アンドロメダの図像は、ローマのヴァチカン美術館にあるヴィーナス・フェリクス像を参考にしていると考えられています。ルーベンスは、この像をローマ滞在中に見たか、あるいはヘンドリック・ホルツィウスのスケッチを通じて知った可能性があります。

図像的特徴と物語の変更点

オウィディウスの物語では、ペルセウスは有翼のサンダルで空を飛びますが、ルーベンスはペガソスに変更しました。これは、14世紀のジョヴァンニ・ボッカチオの著作に由来しています。この変更により、絵画では、ペルセウスの英雄的な姿がより強調されるようになりました。実際に、ペガソスに乗ったペルセウスは、他の画家の作品にも見られます。

来歴と別バージョン

この絵画の初期の来歴は不明ですが、1764年以降はプロイセン国王フリードリヒ2世のコレクションとして記録されています。現在は、ベルリンの絵画館に所蔵されています。

ルーベンスは、同じ主題で複数の作品を制作しており、エルミタージュ美術館に所蔵されている作品は、本作品と最も近い関係にあります。この作品は、構図が左右反転しているものの、ほぼ同じ構成で描かれており、ペルセウスがメドゥーサの盾を装備している点が特徴です。また、ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館所蔵の作品は、スケッチであり、他の美術館にも別バージョンが所蔵されています。

後世への影響

19世紀には、フランドルの画家エドゥアルド・デ・ヤンスがこの作品を複製しており、現在、その複製はアントウェルペンのルーベンスの家に所蔵されています。ルーベンスの描いたこの作品は、後世の芸術家たちに大きな影響を与えました。

まとめ

『アンドロメダを解放するペルセウス』は、ルーベンスのバロック美術の才能が発揮された作品です。神話的な物語を、躍動感あふれる構図と鮮やかな色彩で描いています。ペルセウスの英雄的な姿とアンドロメダの繊細な美しさが、見る人の心を捉えます。この作品は、ルーベンスの作品の中でも重要な位置を占めており、今日でも多くの人々を魅了し続けています。

もう一度検索