アンナ・マリア・ファン・シュルマン

アンナ・マリア・ファン・シュルマン（1607年 11月5日 - 1678年 5月4日）は、17世紀のオランダで活躍した傑出した女性博識家です。ドイツのケルンに生まれた彼女は、画家、版画家、詩人、哲学者といった多様な肩書を持ち、当時の女性としては異例なほど高度な教育を受けました。特に語学において驚異的な才能を発揮し、ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語、アラビア語、シリア語、アラム語、さらにはエチオピア語を含む14もの言語を習得したことで知られています。その並外れた語学力はヨーロッパ中に知れ渡り、「ユトレヒトの星」という称賛を浴びました。彼女はルネサンス最盛期を過ぎた時代の女性教養人として、また女性が学びの機会を得ることの重要性を説いた先駆者として、その名を歴史に刻んでいます。

幼少期と並外れた教育

シュルマンはケルンの裕福な家庭に誕生しました。幼い頃からその才能は明らかで、わずか4歳で既に文字を習得するなど、並外れた学習能力を示しました。兄弟と共に教育を受け、ギリシア語、ラテン語、算術、幾何学、天文学、音楽、美術といった幅広い分野を修めました。特に語学に関しては兄をも凌ぐ才能を示したため、家族は神学とオリエント言語学の専門家であるヒスベルトゥス・ヴーティウスを家庭教師として招き、その語学力をさらに磨かせました。

ユトレヒトでの学究生活

1613年に父親を亡くした後、彼女は母親と叔母たちと共にユトレヒトへ移り住みました。1630年代には、マグダレナ・フォン・デ・パッセからエングレーヴィングの技法を学びます。そして1636年、女性として初めてユトレヒト大学での学びを許されるという画期的な出来事を経験します。ただし、当時の慣習により、女性が公の場で学ぶことは認められていなかったため、彼女は講義を聴く際にカーテンの後ろに席を設け、他の学生から隔てられる必要がありました。シュルマンは文学や科学全般、中でも神学に対して強い関心を持ち、最終的には法学の学位を取得して大学を卒業しました。

知的な交流と女性教育への提言

1630年代後半には、ライデンでプファルツ公女エリーザベトと親交を結びます。1630年代から1640年代にかけて、多くの著名な哲学者、文筆家、語学研究者たちと広範な手紙のやり取りを行い、当時の知的ネットワークの中心人物の一人となりました。1638年には、女性にも学問の機会を与えるべきか否かを論じた画期的な論文『教養ある処女、もしくは処女は学者たり得るか否か』のラテン語版が出版され、翌年には英語とオランダ語に翻訳されるなど、大きな反響を呼びました。その後も、女性が学ぶ権利の重要性を説く著作（例: "Whether the Study of Letters Is Fitting for a Christian Woman?"）を発表し続け、女性教育の擁護者としての地位を確立しました。

多彩な芸術活動

学問のみならず、シュルマンは芸術分野でも類稀な才能を発揮しました。ガラスやダイヤモンドを用いた繊細なエングレーヴィング作品を制作したほか、ロウ型、象牙や木材の彫刻にも熟練しました。油彩画も手掛け、特に肖像画を多く描きました。また、非常に緻密な切り絵作品も残されています。画家ヘラルト・ファン・ホントホルストからも手ほどきを受けるなど、その芸術活動は多岐にわたるものでした。

晩年と宗教運動への傾倒

1649年には、スウェーデン女王クリスティーナのもとへ向かう途上の哲学者デカルトから訪問を受けるなど、その名声は高まる一方でした。しかし、シュルマンの生涯は晩年に大きな転機を迎えます。1664年、元イエズス会士でプロテスタントに改宗したジャン・ド・ラバディと出会い、彼が創始したラバディスムという宗教運動に深く傾倒していきます。ラバディは女性の高い知的能力を認め、シュルマンの博識を称賛したため、彼女はラバディの主要な支援者となりました。彼女は他のラバディストたちと共に質素な共同生活を送るようになります。迫害を受けたラバディストたちは、プファルツ公女エリーザベトが院長を務めるヴェストファーレンのプロテスタント女子修道院に匿われ、シュルマンもそこで3年間を過ごしましたが、住民や教会との軋轢から再び新たな避難先を求めて移動を余儀なくされます。1673年には、ラバディスムへの参加理由を弁明し、批判に応えるラテン語の著書『正しき選択』を刊行しました。一行はアムステルダム、ハンブルク＝アルトナと移転を繰り返しましたが、1674年にハンブルクでジャン・ド・ラバディが死去します。最終的にフリースラント州のウィウェルトに落ち着き、アンナ・マリア・ファン・シュルマンは1678年 5月4日にその地で波乱に満ちた生涯を閉じました。

アンナ・マリア・ファン・シュルマンは、17世紀という時代にあって、驚異的な知性と多様な才能をもって学問と芸術の両分野で輝きを放ち、特に女性の教育を受ける権利を強く訴えた先駆的な人物として記憶されています。

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