アンナ・マリア・モーツァルト

アンナ・マリア・ヴァルブルガ・モーツァルト

アンナ・マリア・ヴァルブルガ・モーツァルト（Anna Maria Walburga Mozart, 1720年12月25日生 - 1778年7月3日没）は、音楽史に名を刻む著名な音楽一家の一員です。彼女は、優れたヴァイオリニストであり作曲家でもあったレオポルト・モーツァルトを夫に持ち、そして何よりも、稀代の天才音楽家として後世に多大な影響を与えたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの母親として知られています。結婚前の姓はペルトル（Pertl）でした。彼女自身が音楽的な才能に恵まれていたかどうかについては、残念ながら明確な記録は残されていません。

生涯と家族

アンナ・マリアは、現在のオーストリア、ザルツブルク州に位置する小さな村、ザンクトギルゲンで生を受けました。幼少期の4歳という早さで父と死別し、その後は母と共にザルツブルクの街へと移り住みました。1747年にレオポルト・モーツァルトと結婚し、七人の子供を授かりましたが、そのうち五人は乳幼児期にこの世を去るという悲劇に見舞われています。過酷な時代の中で生き残ったのは、姉のマリア・アンナ（通称ナンネル）と、弟のヴォルフガング・アマデウスの二人でした。

ナンネルとヴォルフガングは、幼い頃から驚異的な音楽的才能を開花させました。彼らの父であるレオポルトは、この子供たちの才能を広く知らしめるため、まだ幼い彼らを連れてヨーロッパ各地を巡る大規模な演奏旅行を企画し、実行しました。これは「モーツァルト家の大旅行」として歴史に記録されています。

演奏旅行への同行と最期

アンナ・マリアは、夫レオポルトがザルツブルク大司教から長期の離宮許可を得られない時期などを含め、幾度か子供たちの演奏旅行に同行しました。これは、特に幼い子供たちにとって、母親の存在が旅の過酷さを和らげる上で非常に重要であったことを示唆しています。1777年から1779年にかけて行われたヴォルフガング単独でのマンハイム、パリへの旅行に際しても、アンナ・マリアは息子に付き添いました。しかし、旅先のフランス、パリで彼女は熱病とされる病に倒れ、1778年7月3日、異郷の地で波乱の生涯を終えることになりました。

死後

母の死という突然の悲劇に直面したヴォルフガングは、すぐに父レオポルトと姉ナンネルへ手紙を送りましたが、手紙の冒頭では母の死そのものには触れず、曖昧な表現に留めました。しかし、同じ日に書かれた友人ヨーゼフ・ブリンガー神父への手紙では、率直に母の死を伝えています。父レオポルトへ、母が亡くなったという事実を明確に報告する手紙を送ったのは、母の死から6日後のことでした。しかし、レオポルトはすでにヴォルフガングからの以前の手紙の文面から、何らかの深刻な事態が起こったことを察していたと伝えられています。

アンナ・マリアの遺体は、パリのサントゥスタシュ教会に埋葬されました。しかし、1785年にこの教会の墓地が廃止され、埋葬されていた遺骨はパリ市内の地下納骨堂、カタコンブ・ド・パリへと移されました。このため、現在、彼女の墓そのものは現存していません。サントゥスタシュ教会には、彼女を追悼し記念するための銘板が設置されています。

アンナ・マリアがザンクトギルゲンで生まれた生家は、後に娘のナンネルとその夫ヨハン・バプティスト・フォン・ゼーブルク男爵が居住した場所としても知られています。現在、この歴史ある建物は、1983年に開館したモーツァルト博物館として一般に公開されており、多くの人々が訪れています。アンナ・マリアは、自身が表舞台で活躍する音楽家ではなかったものの、その人生はモーツァルト一家の歴史と深く結びついており、特にヴォルフガングの幼少期の成長と活動を支えた重要な存在であったと言えるでしょう。

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