アヴェンジャー対戦車自走砲

A30 アヴェンジャー対戦車 自走砲：実戦の舞台に立つことなく終えた、英軍の強力な対戦車兵器

第二次世界大戦末期のイギリス軍は、ドイツ軍のティーガーIやパンターといった強力な戦車に対抗できる対戦車能力の強化を急務としていました。その中で開発されたのが、A30 アヴェンジャー対戦車自走砲です。本車は、巡航戦車Mk.VIIIチャレンジャーをベースに開発されましたが、チャレンジャーの設計をさらに改良することで、より強力な対戦車戦闘能力を目指しました。しかし、ドイツの降伏により、その威容を戦場で披露する機会は訪れることはありませんでした。

開発の経緯と名称

A30 アヴェンジャーの開発は、レイランド自動車が担当しました。同社はA27巡航戦車シリーズの生産にも携わっており、戦車開発において豊富な経験を持っていました。本車の開発はチャレンジャーと並行して進められましたが、ドイツの戦況悪化に伴い、チャレンジャーよりも開発が優先されたわけではないため、チャレンジャーの設計を徹底的に見直し、改良が施されています。

本車の名称は、戦後になって「アヴェンジャー（復讐者）」と命名されました。それ以前は、A30・17ポンド自走砲、SP2、A30アヴェンジャーSP2対戦車自走砲など、様々な呼び名で呼ばれていました。

車体構造：チャレンジャーの改良と強化

A30アヴェンジャーの車体は、クロムウェル巡航戦車の派生型であるチャレンジャー巡航戦車の改良型をベースとしています。射撃の安定性を高めるため、全長と全幅が拡大されました。全長は8.03mから8.71m、全幅は2.90mから3.05mに増加しています。

車体の構造は、クルセーダー巡航戦車やクロムウェルと同様、軟鋼製のフレームに装甲板を溶接する方式です。車体側面下部は、14mmの軟鋼圧延板に14mmの均質圧延装甲板を溶接した構造となっています。転輪は、チャレンジャーと同じく片側6個です。正面上部の装甲は、元の63.5mmに加えて38.3mmの装甲板を追加し、合計101.8mmの厚さに強化されています。ただし、追加装甲が施されていない車両も存在します。

砲塔：低く抑えられた車高と改良された構造

砲塔は、チャレンジャーよりも全高が低く設計されています。全高は、2.67mから2.21mに低減されました。砲塔の組み立ては、クロムウェルのようなリベット接合ではなく、チャレンジャーと同様に溶接によって行われました。

初期の砲塔はオープントップでしたが、北西ヨーロッパでの戦闘で、空中炸裂弾による死傷事故が多発したため、スペースド・ヘッドカバー装甲と呼ばれる屋根が追加されました。しかし、このカバーは銃弾や砲弾片が侵入する可能性があり、搭乗員の負傷リスクが残っていました。カバーは、後ろ側が2枚に分割して開閉可能でした。

配備と運用：実戦参加なき終焉

アヴェンジャーの乗員配置は、車体右側に操縦手、その隣に砲手、その後ろに副装填手、左側に車長兼通信手、その後ろに装填手という配置でした。しかし、人員不足や、17ポンド砲搭載のファイアフライが装填手を一人しか配置していなかったことなどから、副装填手なしで運用されたケースもあったようです。

1945年12月に最初の量産車が納入されましたが、ドイツが5月8日に降伏したため、実戦に参加することはありませんでした。230両の第一ロットがすべて納入されたのは1946年でした。その後、アヴェンジャーは2個対戦車連隊と2個対戦車中隊に配備されましたが、1949年には教育訓練任務も終了し、全車が退役しました。

ゲームへの登場

アヴェンジャーは、War Thunderなどのゲームにも登場しています。ゲーム内では、イギリス軍の中戦車または駆逐戦車としてプレイ可能です。

参考文献

『クロムウェル巡航戦車1942‐1950 (オスプレイ・ミリタリー・シリーズ世界の戦車イラストレイテッド)』デイヴィッド・フレッチャー、リチャード・C. ハーレイ、ピーター・サースン著、篠原比佐人訳、大日本絵画、2007年