アーケプラスチダ

アーケプラスチダとは

アーケプラスチダ（学名：Archaeplastida）は、ディアフォレティケスと呼ばれる真核生物の大きな系統群に属する一群です。このグループには、今日私たちが見る陸上植物のほか、多様な緑藻や紅藻、そしてあまり知られていない灰色植物などが含まれています。

アーケプラスチダは「古色素体類」あるいは「一次植物（Primoplantae）」とも呼ばれます。これらの別称は、彼らの持つ最も重要な特徴、すなわち細胞内での光合成能力の獲得様式に由来しています。

特徴：一次共生が生んだプラスチド

アーケプラスチダが他の真核生物と決定的に異なるのは、細胞内の光合成小器官であるプラスチド（色素体）の起源です。

彼らが持つプラスチドは、遠い昔、かつて独立した生命体であったシアノバクテリアが、アーケプラスチダの祖先となる真核細胞内に取り込まれ、そのまま共生関係を樹立したことによって生まれました。このプロセスは一次共生と呼ばれます。一次共生に由来するアーケプラスチダのプラスチドは、細胞膜と外膜の二枚の膜に囲まれているのが特徴です。これが「一次植物」と呼ばれる所以であり、真核生物が光合成能力を獲得した主要な出来事の一つと考えられています。

これに対し、アーケプラスチダ以外の真核生物が持つプラスチドの多くは、アーケプラスチダの仲間（主に緑藻や紅藻）がさらに別の真核細胞に共生することによって獲得されたものです（二次共生、三次共生）。これらの二次・三次共生に由来するプラスチドは、一般的に三枚または四枚の膜に囲まれており、起源の異なることを示しています。

その他の形態的な特徴として、アーケプラスチダの細胞には通常、細胞分裂に関わる中心体がありません。また、ミトコンドリアの内膜のひだ（クリステ）が平板状であることも挙げられます。細胞壁は多くの種類でセルロースを含みますが、これは他の真核生物でも見られる普遍的な形質です。エネルギー貯蔵物質としてはデンプンが広く利用されています。

これらの形態的特徴に加え、アーケプラスチダが単一の共通祖先を持つ単系統群であるという強力な証拠は、主に分子系統学の研究から得られています。特に、彼らが持つプラスチドが、特定のシアノバクテリア系統から一度だけ獲得されたものであるという説は、広く受け入れられています（ただし、一部に異論もあります）。

名称の由来と歴史

「Archaeplastida」という名称は、このグループの単系統性が分子レベルで強く支持されるようになった後の2005年に提唱されました。

それ以前は、このグループ全体、あるいはその主要な構成員である緑藻や陸上植物を指して、広く「植物界」という言葉が使われることもありました。しかし、「植物界」という言葉が指す範囲が使用者によって異なり曖昧だったため、「広義の植物界」といった表現が用いられることもありました。

2004年には、用語の混乱を避けるため、「Primoplantae」や「Plastida」といった別の名称も提案されています。「Archaeplastida」は、真核生物全体の分類体系を包括的に見直した国際的な研究者グループ（Adlら、2005年）によって提案され、以降多くの研究で採用されています。彼らは伝統的な分類階級に厳密に従うのではなく、系統的な関係性を重視する立場をとりました。

内部系統と進化の議論

アーケプラスチダ内部の系統関係は、大きく紅藻系統と緑色植物系統（緑藻と陸上植物を含む）に分かれます。

- 紅藻：多くのシアノバクテリアと同様に、光合成色素としてクロロフィルaとフィコビリタンパク質を主要成分として持ちます。貯蔵デンプンをプラスチドの膜の外側に蓄積するのが特徴です。
- 緑色植物：クロロフィルaに加え、クロロフィルbを持ちますが、フィコビリタンパク質は持ちません。貯蔵デンプンはプラスチドの内側に蓄積されます。
- 灰色植物：アーケプラスチダの中では少数派ですが、特異な存在です。色素組成は紅藻やシアノバクテリアに類似しますが、彼らのプラスチド（シアネレと呼ばれる）は、シアノバクテリア由来のペプチドグリカン層を細胞壁として保持している点が他のグループと異なります。

アーケプラスチダ全体の系統樹の基部（最も早期に分岐した系統）については、研究者の間で依然として議論が続いています。多くの分子系統解析では灰色植物が最も初期に分岐したと示唆されていますが、一部のゲノム研究では紅藻が他の真核生物群（クリプチスタやピコゾア類など）と共にアーケプラスチダの基部で分岐した可能性も示されています。

また、クリプチスタがアーケプラスチダの一員であるかどうかも明確になっておらず、テロネマ門やピコゾア門といった他の真核生物群の系統的位置も確定していません。ハクロビアというグループは、複雑な二次共生を経験したとされるSARクレードに近縁である可能性も指摘されており、このような複雑な進化史が分子系統解析を困難にしています。

アーケプラスチダの祖先に共生してプラスチドとなったシアノバクテリアは、現代のGloeomargarita lithophoraというシアノバクテリアやその近縁種に近い系統であったと推測されています。Gloeomargaritaや、アーケプラスチダの中で比較的原始的なグループが主に淡水環境で見られることから、アーケプラスチダの進化は淡水で始まり、海洋への進出は後の時代になってからであったという考えが有力視されています。

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