アーサー・アンダーセン

アーサー・アンダーセン：栄光と挫折の軌跡

アーサー・アンダーセンは、かつて世界5大会計事務所の仲間入りを果たした、アメリカ合衆国シカゴに拠点を置く巨大会計事務所でした。監査、税務、そしてビジネスコンサルティングという3つの柱を軸に、数多くの公認会計士や専門家を擁し、世界中で活躍していました。しかし、その輝かしい歴史は、エンロン事件をきっかけに終焉を迎えることとなります。

設立から成長へ

1913年、アーサー・アンダーセンとクラレンス・デレーニーによって「Andersen, DeLany & Co.」として設立されました。創業者のアーサー・アンダーセンは、困難な生い立ちを乗り越え、23歳でイリノイ州最年少の公認会計士となるなど、類まれな能力の持ち主でした。彼はシュリッツビール社の会計責任者を務めながら、ノースウェスタン大学のケロッグ経営大学院で学び、1913年には独立。シュリッツの会計監査を行いながら、ノースウェスタン大学で会計学を教え、実務に根ざした教育を展開しました。

アーサー・アンダーセンは、粉飾決算を持ちかける大手顧客からの依頼を断るほどの高い倫理観を持ち合わせていました。巨額の利益を犠牲にしても、自身の信念を貫く姿勢は、彼の誠実さを示す象徴的なエピソードと言えるでしょう。彼の尽力もあり、事務所は急速に成長し、アメリカにおける会計学の発展と高水準な会計基準の普及に大きく貢献しました。1947年に彼が亡くなった後も、アーサー・アンダーセンは会計業界をリードし続け、多くの名だたる大企業を顧客として抱えるまでに成長しました。

コンサルティング部門の分社化と急成長

1970～80年代には、コンサルティング業務が急拡大しました。しかし、内部改善を支援するコンサルティング部門と、外部から監査する会計監査部門との間で利益相反が生じる問題が浮上しました。この問題に対処するため、1989年にはコンサルティング部門を独立させ、「アンダーセン・コンサルティング」（現アクセンチュア）を設立しました。

他の大手会計事務所が合併を繰り返して巨大化していく中、アーサー・アンダーセンは、米国ファームとして独自路線を歩み、特に米国国内では圧倒的なブランド力を誇っていました。

エンロン事件と解散

2001年10月、ウォールストリート・ジャーナルがエンロン社の不正会計疑惑を報道しました。エンロン社の監査を担当していたアーサー・アンダーセンが、会計粉飾やその証拠隠滅に関与していたことが発覚したのです。この事件により、アーサー・アンダーセンの信用は地に落ち、2002年には解散という事態に追い込まれました。

2002年6月には、エンロン社の監査資料を抹消したとして証拠隠滅の罪で有罪判決を受けました。しかし、2005年5月には連邦最高裁で逆転無罪判決が言い渡されましたが、時既に遅く、会社の再建は不可能でした。

日本法人とその後

アーサー・アンダーセンは日本においても、朝日監査法人と提携していました。アーサー・アンダーセンの解散により、海外提携先を失った朝日監査法人は、KPMGと提携し、あずさ監査法人を設立しました。

アーサー・アンダーセンから多くの優秀な人材が輩出され、経済界や政界で活躍しています。その中には、岩本繁氏（元アーサー・アンダーセン日本代表、元有限責任あずさ監査法人理事長）、岡俊子氏（明治大学教授、マーバルパートナーズ社長）、尾立源幸氏（元参議院議員）、勝間和代氏（経済評論家）、金子英樹氏（シンプレクス・ホールディングス創業者・社長）、西岡一正氏（アビームコンサルティング社長）、山内悦嗣氏（元アーサー・アンダーセン日本代表、元ソニー監査委員会議長）、山口揚平氏（コンサルタント、投資家）などが含まれます。

アーサー・アンダーセンの物語は、会計業界における倫理の重要性と、巨大企業の栄光と凋落のドラマを象徴する出来事として、今も語り継がれています。そして、その歴史は、現代のビジネス社会におけるリスク管理やコンプライアンスの重要性を改めて認識させる教訓となっています。

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