エンロン

エンロン：アメリカを震撼させた巨大企業の崩壊

概要

エンロン社は、かつてアメリカ合衆国テキサス州ヒューストンに本社を置いていた、エネルギー取引とITビジネスを展開する巨大企業でした。2000年には年間売上高1,110億ドルを誇り、全米でも有数の企業として名を馳せていましたが、2001年 12月、巨額の不正会計と粉飾決算が発覚し、突如として破綻しました。この事件は「エンロンショック」と呼ばれ、世界経済に大きな衝撃を与えました。破綻時の負債総額は少なくとも310億ドル、簿外債務を含めると400億ドルを超えたとも言われ、2002年のワールドコム破綻まで、アメリカ史上最大の企業破綻でした。

歴史と企業活動

エンロン社の起源は1931年まで遡り、複数のエネルギー関連企業の合併によって設立されました。1985年にはインターノースとヒューストン・ナチュラルガスの合併により現在の社名「エンロン」となり、規制緩和の波に乗り、積極的にデリバティブ取引を取り入れることで急成長を遂げました。しかし、1980年代後半から粉飾会計やインサイダー取引が行われていたことが判明しています。

1990年代には、デリバティブ取引を駆使し、電力価格の変動を利用した循環取引などを積極的に行い、巨額の利益を計上しました。カリフォルニア電力危機では、電力供給を意図的に制限し、価格を吊り上げる行為にも関与していたとされています。この行為は、社内通話記録からも裏付けられています。

エンロン社は、1999年に「エンロン・オンライン」というオンライン取引プラットフォームを立ち上げ、電力だけでなく、ガス、石油、アルミニウムなど様々な商品の取引を展開しました。このプラットフォームは技術的には高く評価されていましたが、エンロン社自身が売買を行うトレーディングモデルであったために、市場のプレイヤーに利用される面もありました。

損失隠蔽と不正会計

エンロン社の急速な成長の裏には、巧妙な損失隠蔽工作がありました。取引損失を連結決算対象外の子会社（特別目的事業体：SPE）に付け替えることで、簿外債務とする手法が用いられました。会計監査はアーサー・アンダーセンが行っていましたが、同社も不正に関与していたことが後に明らかになりました。

代表的な例として、LJMプロジェクトが挙げられます。これは、エンロン社が保有するリズムス・ネットコネクション株の評価益をSPEであるLJMパートナーズに移管し、将来的な値下がりリスクを隠蔽しようとしたものです。LJMは事実上、エンロン社と一体でしたが、連結対象外とされる巧妙な仕組みでした。リズムス社の破綻により、本来エンロン社が計上すべき損失が隠蔽されました。

政治との関係

エンロン社は、共和党と民主党の双方に巨額の政治献金を行い、ロビー活動にも積極的でした。特に、CEOケネス・レイとブッシュ大統領との個人的な関係は有名で、政府政策への影響が指摘されています。また、インドのダボール火力発電所プロジェクトでは、国務長官が事態収拾のためにインドに派遣されるなど、アメリカの外交にも影響を与えました。

日本における展開

1997年には日本への進出を発表し、発電所の建設計画などを発表しましたが、これは株価操作目的であった可能性が高いとされています。オリックスと提携してエンロン・ジャパンを設立し、電力自由化への期待感から、日本のマスコミにも好意的に報道されました。しかし、具体的な事業展開を行うことなく、本社の破綻とともに日本における関連会社も解散・閉鎖されました。

破綻とその後

2000年 8月にはエンロン社の株価は90ドルを超えましたが、不正会計疑惑が発覚した2001年10月以降急落しました。12月2日、エンロン社は連邦倒産法第11章を申請し、破綻しました。経営陣は、株価下落前に大量の自社株を売却していたことが発覚し、インサイダー取引の疑いで訴追されました。

破綻後、エンロン社は保有資産を売却し、債権者への債務返済を進めました。エンロン・オンラインはUBSウォーバーグに売却され、最終的に2007年3月にはEnron Creditors Recovery Corp.に改称されました。

影響と教訓

エンロンショックは、世界経済に大きな影響を与えました。アメリカでは会計不信が広がり、企業統治のあり方や会計監査の重要性が改めて問われることになりました。この事件を契機に、2002年にはSOX法が制定されました。また、アナリストの客観性や格付けモデルの改善も促しました。日本では、エンロン社債を保有していた投資家が損失を被りました。ライブドア事件など、エンロンショックは日本の企業経営にも大きな影響を与えました。エンロン社の経営陣と関係者は、2002年にイグノーベル賞経済学賞を受賞しています。この事件は、企業倫理、会計監査、そして政治と経済の関係について、多くの教訓を残しました。

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