アート・ロック

アート・ロックとは

アート・ロックは、1960年代後半に、音楽に芸術的な要素を取り入れたロックバンドやその作品を指す音楽用語です。1970年代初頭には「ニュー・ロック」という言葉も生まれました。英語圏では、アート・ロックは1970年代に「プログレッシブ・ロック」に吸収されたと見なされています。

アート・ロック誕生の背景

1960年代後半は、ベトナム戦争や公民権運動、学生運動などの社会的な変化に加え、テレビの普及といったメディアの発達、そしてビートルズを中心とした音楽シーンの創造的な発展により、人々の価値観が大きく変化した時代でした。それまでシングルヒットが重視されていたポピュラー音楽において、アルバムをより重視するバンドが登場し始めます。アルバム重視の制作スタイルは、ラジオでのオンエア時間を気にせず自由に楽曲を制作することを可能にし、それまでにはない編曲や要素を取り入れるミュージシャンが現れました。

アート・ロックを牽引したミュージシャンたち

この流れを牽引した代表的なミュージシャンとして、クリーム、ヴァニラ・ファッジ、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス、ピンク・フロイド、ジェファーソン・エアプレイン、フランク・ザッパ、ドアーズ、グレイトフル・デッド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどが挙げられます。それまでヒットチャートを重視していたポップなロックバンドの中にも、この傾向が早くから現れた例があります。例えば、ビートルズは初期のアルバムがシングル向きの曲を集めたものでしたが、1967年には『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』というコンセプトアルバムを発表しています。また、同年デビューしたトラフィックもルーツミュージックとプログレッシブ・ロック双方を取り入れた音楽性で評価されました。ディープ・パープルの場合、初期のアルバムの邦題が『素晴らしきアート・ロックの世界』だったことも、当時アート・ロックが注目されていたことを示しています。

日本ではヴァニラ・ファッジやクリームがアート・ロックの代表格とされていましたが、英米ではプログレッシブ・ロックのバンドなどもアート・ロックの範疇に含まれる傾向がありました。

アート・ロックの特徴

アート・ロックは、日常的な美学や使い捨ての美とは異なり、ロマンチックで自律的な伝統を重視します。その特徴として、以下のような点が挙げられます。

アルバム重視の音楽: シングルよりもアルバム全体を重視し、歌だけでなく楽曲構成やコンセプトに重点を置きます。
複雑な構成と長い楽器セクション: 複雑な構成や長い楽器セクションを多用し、交響楽的なオーケストレーションを用いることがあります。
コンセプト・アルバム: コンセプト・アルバムという形式を伝統的に用い、そのテーマは想像力や政治的な指向を持つことがあります。
古典的な影響: ヨーロッパのクラシック音楽の要素を取り入れ、ロック音楽を芸術の域に高めようとする試みです。
前衛的な要素:プログレッシブ・ロックに比べて、より挑戦的でノイズが多く、型にはまらない前衛的な音楽性が特徴です。

プログレッシブ・ロックとの関連

プログレッシブ・ロックは、クラシック音楽の訓練を受けた演奏技術や哲学性に重点を置く一方、アート・ロックはより挑戦的で、ノイズが多く型にはまらない音楽性を持ちます。しかし、両者ともロック音楽を芸術性の高いレベルに引き上げようとする試みであり、コンセプト・アルバムやロック・オペラの発想に繋がりました。実際には、アート・ロックはクラシック要素を持つロック、またはプログレッシブ・ロックを指すこともあります。

アート・ロックの発展

1970年代には、ドイツのクラウトロックも注目されました。アート・ロックとポップ・ミュージックの境界は、20世紀後半にはますます曖昧になっていきます。1960年代後半に進行するにつれて、プログレッシブ・ロックの誕生と並行して、アート・ロックは実験的なロックとして評価を獲得していきました。

1970年代後半以降のアート・ロック

1970年代半ばには全盛期を過ぎましたが、その後もアート・ロックはさまざまなポピュラー音楽のジャンルに影響を与え続けました。特に、ブライアン・イーノとデヴィッド・ボウイやトーキング・ヘッズとのコラボレーションは、アート・ロックの要素をポピュラー音楽に取り入れることに成功した例として挙げられます。ボウイとイーノが共同制作した「ベルリン三部作」は、「アートロック三連作」として評価され、実験的な音楽性で後世のミュージシャンに大きな影響を与えました。

1980年代には、レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイド、ジェスロタル、エマーソン・レイク＆パーマーなどの1970年代のバンドに代わり、新しい世代の英国のアート・ロッカーやニュー・ウェイヴバンドが登場しました。XTCのようなバンドは、ロックファンにとってよりアクセスしやすいニュー・ウェイヴグループとして、新たな音楽の探求を行いました。

関連項目

サイケデリック・ロック
* ブルース・ロック

アート・ロックは、ロック音楽の可能性を広げ、後の音楽シーンに大きな影響を与えた重要なジャンルです。

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