アーネスト・チェザロ

アーネスト・チェザロ（伊: Ernesto Cesàro、1859年 3月12日 - 1906年 9月12日）は、イタリア王国出身の著名な数学者です。主に微分幾何学の分野で顕著な功績を残しましたが、特に発散する級数に対してもその「平均」を定義することで収束性を論じる手法、すなわちチェザロ和やチェザロ平均の概念を導入したことで広く知られています。彼の研究スタイルや興味は、フランスの偉大な数学者ジャン・ガストン・ダルブーから大きな影響を受けました。

来歴

チェザロは1859年 3月12日、経済的な発展期を迎えていたイタリア南部ナポリに生まれました。父は農夫のルイージ・チェザロ、母は後妻のフォルトゥナータ・ヌンツィアンテでした。幼少期から青年期にかけて、彼は故郷ナポリだけでなく、トッレ・アンヌンツィアータ、ノーラ、さらにはベルギーのリエージュ、イタリアの首都ローマなど、様々な都市を転々とする生活を送りました。ナポリの中等・高等教育を一貫して行う学校に入学し、ノーラでの一時的な居住期間を経て再びナポリに戻り、1872年に同校を卒業しています。

1873年、チェザロはベルギーのリエージュ大学へと送られ、鉱物学と結晶学の講師を務めていた長兄ジュゼッペ・チェザロのもとで、同大学の鉱山学部に入学しました。しかし、彼は数学への情熱を深め、イタリア国内での研究継続を強く望むようになります。ローマ大学に願書を提出しましたが、これは残念ながら認められませんでした。結果として、彼はリエージュ大学で数学を教えていたウジェーヌ・シャルル・カタラン教授の指導を仰ぐことになります。

1879年に父ルイージを亡くしたことは、チェザロ家の家計に深刻な影響を与えました。これにより、チェザロは学業を一時中断してトッレ・アンヌンツィアータへ帰郷し、アンジェリーナという女性と結婚します。しかし学問への意欲は衰えず、1882年には奨学金を得ることができ、再びリエージュ大学に戻って学業を再開しました。リエージュではカタラン教授の協力を得て、1883年に最初の数学論文『Sur diverses questions d'arithmétique（算術における様々な問題について）』を発表しました。これは彼の数論における記念すべき第一歩となりました。

リエージュ大学在学中には、数学の中心地であったパリにも滞在し、パリ大学ソルボンヌで学ぶ機会を得ました。ここでは、シャルル・エルミート、ジャン・ガストン・ダルブー、ジョゼフ・アルフレッド・セレといった当時のヨーロッパを代表する数学者たちの講義を聴講しました。特にダルブーからの影響は非常に大きく、その後のチェザロの研究テーマや手法に決定的な方向性を与えました。しかし、リエージュ大学内の一部の教授との関係が良好ではなかったこともあり、チェザロはイタリアへの帰国を強く望むようになります。

イタリアの著名な数学者であるルイージ・クレモナとウリッセ・ディーニの尽力により奨学金を得たチェザロは、1884年に念願のローマ大学に入学しました。ローマでの研究期間は非常に生産的で、ダルブーの影響を色濃く受けながら、確率論における尤度理論、アルゴリズム（算法）、関数論など、幅広い分野で8編もの論文を立て続けに発表しました。1887年にはローマ大学より博士号を授与されましたが、この頃にはすでにローマ市内の高等学校、Lycée Terenzio Mamianiで主任教授のポストを得ていました。その後、彼はシチリア島のパレルモ大学へ移り、解析学の主任教授を務め、さらに1891年からは故郷ナポリにあるナポリ大学で数学主任教授として教鞭をとることとなりました。

教育者・研究者として名声を得たチェザロは、1895年にはイタリア最高峰の科学アカデミーであるアッカデーミア・デイ・リンチェイの名誉会員に選出され、その学術的功績は国内外で高く評価されました。

数学的貢献

チェザロの数学における主な貢献は、微分幾何学、特に曲面論における業績と、無限級数の収束論における新しい手法の導入です。彼は、通常の意味では収束しない発散級数に対しても、項を順番に平均していくことでその「平均値」を定義し、収束の概念を拡張しました。この手法は「チェザロ和」または「チェザロ平均」と呼ばれ、フーリエ級数などの研究において重要な役割を果たしました。彼の名前はまた、解析学の重要な結果であるシュトルツ＝チェザロの定理や、幾何学におけるチェザロの定理、チェザロの等式といった様々な数学的概念や定理に関連付けられています。さらに、自動車の軌跡計算などに用いられる曲線の一種であるクロソイド曲線（Cornu spiral）の命名者としても知られています。

著書

チェザロは教育にも熱心で、いくつかの数学の教科書や専門書を執筆しています。主要な著書としては、微分幾何学に関する『Lezioni di geometria intrinseca（内因幾何学講義）』（ナポリ、1896年）、微積分学に関する『Elementi di calcolo infinitesimale con numerosi applicazioni geometriche（多数の幾何学的応用を伴う微積分学の要素）』（ナポリ、1905年）、代数解析に関する『Corso di analisi algebrica con introduzione al calcolo infinitesimale（微積分学への導入を伴う代数解析の講義）』（トリノ、1894年）などがあります。

最期

チェザロの生涯は、その学術的功績とは裏腹に、悲劇的な形で幕を閉じました。1906年 9月12日、彼は家族と過ごしていたトッレ・アンヌンツィアータの海水浴場で、溺れている息子マンリオを発見しました。息子を救助しようと海に飛び込みましたが、力尽きて自らも溺死しました。50歳を迎える直前の、あまりにも突然の死でした。

アーネスト・チェザロは、その多岐にわたる研究活動と、後の世代に影響を与えた教育者としての側面、そして級数の平均法という独創的なアイデアによって、イタリアのみならず世界の数学史にその名を刻んでいます。

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