アーノルド・ミューレン

アーノルド・ミューレン（Arnold Mühren）は、1951年 6月2日生まれのオランダ国籍を持つ元サッカー選手、およびサッカー指導者です。主に攻撃的ミッドフィールダーとしてプレーしました。選手時代は国内外の数々の名門クラブで活躍し、オランダ代表としても歴史的な瞬間に関与しました。

クラブでの輝かしいキャリア

ミューレンのプロサッカー選手としての歩みは、1970年に地元のFCフォレンダムで始まりました。わずか1年後の1971年には、オランダの盟主アヤックス・アムステルダムへ移籍。ここでは、既にチームの中心選手として活躍していた5歳年上の実兄、ヘリー・ミューレンと共にプレーする機会を得ました。アヤックスを離れた後、1974年からはFCトゥウェンテに所属し、1977年には国内の主要カップ戦であるKNVBカップのタイトル獲得に貢献しています。

1978年には新たな挑戦としてイングランドへ渡り、イプスウィッチ・タウンFCに加入しました。当時の移籍金は15万ポンドと伝えられています。ボビー・ロブソン監督（後にイングランド代表監督）の下、ミューレンはチームのキープレイヤーとして活躍。1981年にはクラブにとって歴史的な快挙となるUEFAカップ（現在のUEFAヨーロッパリーグ）優勝の立役者の一人となりました。

1982年には、イングランド国内のさらなる強豪、マンチェスター・ユナイテッドFCへ移籍。ここでは、彼の正確なパスと戦術眼が遺憾なく発揮されました。在籍期間中に、チームは1983年と1985年の二度にわたり、イングランド最古のカップ戦であるFAカップのトロフィーを掲げています。特に1985年の決勝、エヴァートンFCとの試合を最後に、彼はオールド・トラッフォードを後にしました。

キャリアの晩年には、古巣であるアヤックスに復帰。円熟期を迎えたミューレンは、若手選手を牽引し、1987年のUEFAカップウィナーズカップ優勝に貢献するなど、チームに再びタイトルをもたらしました。そして、1989年、長きにわたる現役生活に終止符を打ちました。

オランダ代表での功績

オランダ代表のオレンジのユニフォームに初めて袖を通したのは、1978年4月8日に行われたチュニジア代表との試合でした。その後、1988年に代表活動から退くまで、国際Aマッチ通算23試合に出場し、3ゴールを記録しています。

1980年代のオランダ代表は、クライフ時代の華々しい成功から一転、比較的低迷期にありました。そのため、ミューレンが代表で中心的な役割を果たす機会は限られていましたが、キャリアのクライマックスとも言える舞台が訪れます。それが、1988年に西ドイツで開催されたUEFA欧州選手権（ユーロ1988）です。当時37歳というベテランの域に達していたミューレンでしたが、この大会では全5試合にフル出場し、チームの戦術を支える重要な存在となりました。

そして、決勝戦。相手は強力なソビエト連邦代表でした。この試合の後半、1点リードで迎えた場面で、ミューレンは左サイドから伝説的なプレーを生み出します。彼の正確無比な左足から放たれたクロスは、ゴール前中央にいたチームメイト、マルコ・ファンバステンへと供給されました。ファンバステンはこのボールに対し、軸足を固定せず、驚異的なボレーシュートを放ち、これがオランダの2点目、そして優勝を決定づける芸術的なゴールとなりました。ミューレンのこのアシストは、ユーロの歴史、そしてサッカー史に刻まれる名場面の一部となっています。この大会での優勝は、オランダ代表にとって初の主要国際大会タイトルであり、ミューレンはその歴史的な瞬間に中心選手として立ち会ったのです。

指導者への転身

現役引退後、ミューレンは指導者の道に進みました。選手としてキャリアをスタートさせたFCフォレンダムや、選手として成功を収めたアヤックス・アムステルダムで、主にユースチームのコーチとして、未来を担う若い選手の育成に尽力しました。

家族と関連人物

アーノルド・ミューレンには、実兄のヘリー・ミューレンがいます。ヘリーもまた優れたサッカー選手で、1970年代のアヤックス全盛期において、ヨハン・クライフらと共に左ミッドフィールダーとして活躍しました。ヘリーは1976年にスペインのレアル・ベティスへ移籍してプレーを続け、オランダ代表としても国際Aマッチ10試合に出場しました。1974年のFIFAワールドカップ西ドイツ大会では代表候補に選ばれていましたが、息子の病気を理由に出場を辞退しています。

また、アーノルドの従兄弟には、音楽界で活躍したアーノルド（Arnold）がいます。彼は「ザ・キャッツ（The Cats）」などのバンドで著名なミュージシャンでした。

アーノルド・ミューレンは、その長いキャリアを通じて、オランダ国内外の多くのクラブでタイトルを獲得し、特に選手キャリアの最終盤におけるユーロ1988での活躍は、オランダサッカー史における不朽の功績として記憶されています。指導者としても、母国のサッカー界に貢献を続けています。

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