アーミッシュ

アーミッシュ：信仰と伝統、そして現代社会との葛藤

北米、特にアメリカ合衆国ペンシルバニア州や中西部、そしてカナダのオンタリオ州に暮らすアーミッシュは、独特の生活様式と信仰を持つドイツ系移民の子孫です。18世紀にヨーロッパから移住した彼らは、伝統的な農業や牧畜を中心とした自給自足の生活を営み、現代社会とは異なる独自の価値観を堅持することで知られています。本稿では、アーミッシュの歴史、信仰、文化、そして現代社会との関わりについて、詳細に探っていきましょう。

歴史：宗教的迫害と新たな共同体

アーミッシュのルーツは、16世紀のスイスにまで遡ります。宗教改革の波の中で生まれたメノナイトの一派から、ヤコブ・アマンという人物がより保守的なグループを形成したことが、アーミッシュの始まりです。宗教的迫害を逃れてヨーロッパ各地を転々とした後、彼らはアメリカに渡り、独自の共同体を築き上げていきました。メノナイトとアーミッシュは、信仰の根本は共通していますが、生活様式や規律においては違いが見られます。

教義と規律：「オルドゥヌング」の厳格さ

アーミッシュの生活は、「オルドゥヌング」と呼ばれる厳格な戒律によって規定されています。オルドゥヌングは各コミュニティによって決定されるため、地域差はありますが、共通の基盤として、快楽追求の抑制、技術革新の制限、そして共同体への忠誠が挙げられます。

具体的な規則としては、馬車以外の交通手段の禁止、高等教育の制限、現代技術の導入制限（電気や電話など）、シンプルな服装の規定、そして化粧や娯楽の禁止などが挙げられます。これらの規則に違反した場合、厳格な処分が科せられ、コミュニティからの追放や家族からの絶縁といった事態に発展することもあります。

信仰においては、彼らは専用の教会を持たず、個人の家を持ち回りで集まって礼拝を行います。これは、宗教的な権威の集中を避けるためです。学校教育もコミュニティ内で行われ、教育期間は8年間と限定されています。これは、過剰な知識が謙虚さを失わせるという考えに基づいています。

生活：自給自足と伝統技術の継承

アーミッシュは、可能な限り現代技術を排除し、伝統的な技術と生活様式を維持しています。農業や牧畜を基盤とした自給自足の生活は、彼らのアイデンティティを支える重要な要素となっています。ただし、現代文明を完全に拒絶しているわけではなく、必要と判断した技術を慎重に導入することもあります。例えば、馬車にウィンカーをつけるなど、安全のために必要な最低限の技術は取り入れています。

アーミッシュの若者は、16歳になると「ラムスプリンガ」と呼ばれる期間に突入します。この期間は、アーミッシュの掟から解放され、俗世を経験する機会が与えられます。ラムスプリンガ後、18歳でアーミッシュとして生活を続けるか、俗世で暮らすかを選択することになります。多くの若者はアーミッシュとして生き続けることを選びますが、現代社会の影響を受ける中で、その選択は必ずしも容易ではないことが指摘されています。

文化：質素な生活と独自の芸術

アーミッシュの生活は質素で、彼らの芸術もその生活様式を反映しています。アーミッシュキルトは、古着の切れ端を繋ぎ合わせて作られる、独特の美しさを持つ工芸品です。また、人形なども手作りされ、伝統的な技術と精神性を伝えています。音楽は、個人主義を避けるため、楽器の使用は禁止されており、歌は斉唱で行われます。

現代社会との関わり：葛藤と共存

アーミッシュは、現代社会から隔絶した生活を送っていますが、完全に無関係ではありません。スリーマイル島原発事故や、ランカスター郡の小学校銃乱射事件など、現代社会の出来事が彼らにも大きな影響を与えています。また、観光客向けに商品を販売するなど、現代社会との接点を持つケースも増えています。一方、性的虐待の問題など、コミュニティ内部に抱える課題も存在しています。

結語

アーミッシュは、信仰と伝統を固く守りながら、現代社会の中で独自の生き方を模索し続けています。彼らの生活様式や信仰は、私たちに、現代社会における生活のあり方や価値観について、改めて考える機会を与えてくれます。彼らの存在は、多様な生き方を受け入れる社会の重要性を示唆していると言えるでしょう。

もう一度検索