アーユシュマーン・クラーナー

アーユシュマーン・クラーナー（Ayushmann Khurrana）は、1984年9月14日に生まれたインドの著名な俳優、歌手、そしてテレビ番組の司会者です。特に社会的なタブーや人間の機能不全といったテーマを扱ったユニークな役柄を演じることが多く、その演技力は高く評価されており、国家映画賞やフィルムフェア賞をはじめとする数々の映画賞を受賞しています。

生い立ちと教育

チャンディーガルでプーナムとP・クラーナー夫妻の間に誕生しました。出生時の名前はニシャントでしたが、3歳でアーユシュマーンに改名されます。地元の聖ジョン高等学校を経てDAVカレッジに進学し、英文学を専攻しました。その後、パンジャーブ大学でコミュニケーションの学位を取得しています。大学在学中の5年間は演劇活動に熱心に取り組み、DAVカレッジで劇団「Aaghaaz」と「Manchtantra」の設立に携わりました。彼は路上演劇を企画・実行し、学園祭で数々の賞を獲得しています。また、ダラムヴィール・バーラティの戯曲『Andha Yug』では主役の一人アシュヴァッターマンを演じ、主演男優賞を受賞するなど、学生時代からその才能の片鱗を見せていました。

キャリアの初期

エンターテインメント業界でのキャリアは、2002年にチャンネルVの番組に出演したことから始まります。広く知られるようになったのは、2004年に人気リアリティ番組『MTV Roadies』のシーズン2で優勝したことです。大学卒業後、デリーのラジオ局BIG FM 92.7に入社し、ラジオパーソナリティとして活躍しました。自身の番組「Big Chai – Maan Na Maan」や「Main Tera Ayushmann」を担当し、その才能が認められ、2007年には若年達成賞を受賞、また、バーラト・ニルマン賞を最年少で受賞するという快挙を成し遂げています。

ラジオでの成功後、活躍の場をテレビに移します。MTVの情報番組「Pepsi MTV Wassup」や「The Voice of Youngistaan」でビデオジョッキーを務め、他にもコメディ番組や情報番組に出演しました。その後はカラーズTVのオーディション番組「India's Got Talent」で司会を務めるなど、多方面で才能を発揮しました。

俳優としてのブレイクと挑戦

俳優デビューは2012年、シュージット・シルカル監督作『僕はドナー』でした。この作品で精子提供者という当時としては斬新な役柄を演じ、アヌー・カプールやヤミー・ガウタムと共演しました。役作りのためにワークショップに参加したり、医療関係者と交流したりするなど、徹底した準備を行いました。また、この映画のために自ら作詞・作曲した楽曲「Pani Da Rang」を歌い、歌手としても高い評価を得ました。批評家からは「気さくなキャラクターと茶目っ気のある表情が、彼のユーモアあふれる演技を際立たせている」と評され、興行収入も6億ルピーを超える成功を収めました。この作品で彼はフィルムフェア賞の新人男優賞と男性プレイバックシンガー賞を受賞し、鮮烈な俳優デビューを飾ります。

しかし、その後の数作品は興行的に苦戦しました。2013年の『茶番野郎』、2014年の『Bewakoofiyaan』、そして2015年の『Hawaizaada』は期待された成績を収められませんでした。特に『Hawaizaada』では役のために大幅な減量や言語の習得に挑戦するなど努力しましたが、成功には繋がりませんでした。この期間には、妻タヒラ・カシャップと共著で自伝『Cracking the Code: My Journey to Bollywood』を出版しています。

俳優キャリアの転機となったのは、2015年公開のシャラト・カタリヤ監督作『ヨイショ! 君と走る日』です。肥満体型の女性との結婚を強いられる男性を演じ、批評家からは「口調とボディランゲージが素晴らしい」と絶賛されました。この作品は大きな宣伝は行われなかったものの、興行的にヒットし、再び俳優としての評価を確固たるものにしました。

近年の活躍と社会派作品

2017年以降、アーユシュマーンは次々とヒット作に出演し、その地位を不動のものとします。同年公開の『バレーリーのバルフィ』では、小説家の役を演じ、興行的な成功を収めました。また、『Shubh Mangal Saavdhan』では勃起不全に悩む男性というデリケートな役柄に挑戦し、社会的な議論を巻き起こしました。この作品での演技は高く評価され、フィルムフェア賞主演男優賞にノミネートされました。

2018年は彼にとって飛躍の年となりました。同年公開された2作品、『盲目のメロディ〜インド式殺人狂騒曲〜』と『Badhaai Ho』が両方とも年間興行成績トップ10に入る大ヒットを記録したのです。『盲目のメロディ』では盲目のフリをするピアニストを演じ、その緊張感あふれる演技は絶賛されました。この作品は特に中国で大ヒットし、彼の主演作として過去最高の興行収入を記録しました。『Badhaai Ho』では、高齢の両親の妊娠に困惑する息子を演じ、その自然で説得力のある演技が高く評価されました。これらの作品での功績が認められ、『盲目のメロディ』で国家映画賞主演男優賞（ヴィッキー・コウシャルと同時受賞）、フィルムフェア賞審査員選出男優賞（ランヴィール・シンと同時受賞）を受賞しています。

2019年も勢いは止まらず、『Article 15』と『Dream Girl』という異なるジャンルの作品で成功を収めました。『Article 15』ではカースト制度に焦点を当てた社会派ドラマで警察官を演じ、その「ソウルフルで激しい演技」が評価されました。『Dream Girl』では女性の声を真似してコールセンターで働く男性というコミカルな役を演じ、新たな一面を見せました。

2020年には同性愛者の男性を演じた『結婚は慎重に!』に出演し、性的マイノリティを肯定的に描いた作品として評価されましたが、興行成績は振るいませんでした。また、新型コロナウイルスの影響で劇場公開が見送られ、Amazonプライム・ビデオで配信された『Gulabo Sitabo』ではアミターブ・バッチャンと共演しています。

アーユシュマーン・クラーナーは、従来のボリウッドのヒーロー像にとらわれず、現代インド社会が抱える様々な問題や人間の内面を深く掘り下げた役柄を積極的に選び、観客や批評家から高い評価を得続けています。彼のキャリアは、単なるエンターテイナーに留まらない、社会的なメッセージを持つ俳優としての地位を確立しています。

家族

父P・クラーナーは占星術師として著作も出版しており、母アニタはミャンマー系の血を引く主婦です。両親は現在もチャンディーガルに住んでいます。弟のアパルシャクティ・クラーナーもラジオジョッキーを経て俳優として活動しており、2016年の映画『ダンガルきっと、つよくなる』で俳優デビューを果たしています。妻のタヒラ・カシャップは映画監督（代表作に短編映画『Toffee』）であり、アーユシュマーンとは幼馴染で、学生時代から交際を続けていました。二人の間には、2012年に息子、2014年に娘が生まれています。

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