アーン (映画)

『アーン』（Aan）

1952年に公開されたインド映画『アーン』（原題：आन）は、メーブーブ・カーンが監督し、ディリープ・クマール、プレーム・ナート、ニンミーらが主要キャストを務めた作品です。この映画は、インド映画史上初めてテクニカラーで製作されたという点で、技術的に画期的な試みでした。撮影には16ミリメートルのゲバカラー方式が用いられています。

製作の背景

本作の製作には、当時としては非常に高額な費用、約350万ルピー（2017年換算で約2億6000万ルピー相当）が投じられました。主要な俳優としてディリープ・クマール、プレーム・ナート、ニンミーといった人気スターが起用される一方で、もう一人の主要女性キャストの決定には時間がかかりました。ナルギスやマドゥバーラーといった有名女優が候補に挙がるも実現せず、最終的に監督のメーブーブ・カーンは新人のナディラを抜擢しました。

また、編集中には出資者や配給会社から、人気女優ニンミー演じるマンガラの退場が早すぎるという指摘があり、その登場シーンが新たに追加されるなど、作品の完成に至るまで様々な調整が行われました。

国内外での成功と国際的影響

『アーン』は公開後、インド国内で驚異的なヒットを記録しました。1952年のインド映画の中で最高の興行成績を収め、その純利益は1500万ルピーに達し、これは1955年まで国内興行記録の第1位でした。総興行収入は2800万ルピー（2016年換算で約35億6000万ルピー）という記録的なものでした。

この成功は海を越え、世界へと広がりました。本作は28か国で公開され、各地で17の言語による字幕が付けられました。特にイギリス、アメリカ合衆国、フランス、そして日本といった国々にとって、『アーン』は劇場で初めて公開されたインド映画となりました。

イギリスではアレクサンダー・コルダが配給を担当し、ロンドンでのプレミア上映は大きな注目を集めました。この上映に出席したニンミーは、パーティーでエロール・フリンが彼女の手にキスをしようとした際にこれを拒否したエピソードがメディアで取り上げられ、「インドのキスされなかった少女」（unkissed girl of India）として広く報じられました。また、当時のイギリス首相クレメント・アトリーもプレミアに駆けつけました。

映画の中で、ニンミーが演じたマンガラは観客から絶大な人気を得ました。フランスでは1954年に公開された際に、タイトルが『マンガラ、インドの娘』（Mangala, fille des Indes）に変更され、彼女の姿がフィーチャーされたポスターが作られるほどでした。ニンミー自身、後のインタビューで、ロンドンプレミアをきっかけにセシル・B・デミルをはじめとするハリウッドの関係者から複数の出演オファーを受けたことを語っており、デミルが彼女とナディラの演技を絶賛する手紙を監督に送っていたことも明かしています。

日本でも1954年1月に公開され、興行的に成功を収めました。海外市場全体の興行収入は77万3060ルピー（2016年換算で約150万ドル）に達し、国際的にも大きな成功を収めました。

評価と意義

『アーン』に対する批評も概ね好意的でした。タイムズ紙は、本作のスター、ディリープ・クマールとナディラの魅力について、「ハリウッドをもってしてもこれほど魅力的にはできないだろう」と称賛し、その高いエンターテイメント性を評価しました。

このように、『アーン』はインド映画初のテクニカラー作品として技術的な革新をもたらしただけでなく、国内外で記録的な興行収入を達成し、多くの国で初めてインド映画が紹介されるきっかけを作ったという点で、インド映画史において極めて重要な作品として記憶されています。

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