アーヴィング・クリストル

アーヴィング・クリストル（1920年1月22日 - 2009年9月18日）は、アメリカの文芸批評家であり、ネオコン（新保守主義者）の思想的指導者として知られています。彼は「ネオコンのゴッドファーザー」とも呼ばれ、その思想はアメリカの政治、文化に大きな影響を与えました。

生い立ちと初期の活動

クリストルは、ニューヨーク市ブルックリンで東欧系ユダヤ教徒の家庭に生まれました。彼は、幼少期にバル・ミツワーを受けましたが、自身の思想はユダヤ教とは無関係であると主張していました。ニューヨーク市立大学シティカレッジ（CCNY）在学中にはトロツキストとして活動し、1940年に歴史学の学士号を取得しました。この時期に、後に妻となるガートルード・ヒメルファーブと出会い、1942年に結婚しました。第二次世界大戦中は、機甲歩兵部隊の軍曹としてヨーロッパに従軍しました。

ジャーナリスト、編集者としての活動

戦後、クリストルはジャーナリスト、編集者として活躍しました。1947年から1952年まで『コメンタリー』誌の主筆を務め、英国発の文芸誌『エンカウンター』誌の創刊に携わりました。また、『レポーター』誌の編集者、ベーシック・ブックス出版社の取締役副社長などを歴任しました。これらの活動を通じて、彼は政治、文化に関する幅広い知識と見識を深めました。

ネオコン運動への関与

1960年代後半から、クリストルはネオコン運動に深く関与するようになります。彼は、民主党のタカ派が立ち上げた「民主的多数派のための連合」に参加し、副議長を務めました。その後、アメリカン・エンタープライズ研究所の上席研究員として、ネオコン運動を主導しました。彼は、軍事費の増強、国外派兵、減税、宗教的価値観の復興などを主張しました。また、アメリカ合衆国憲法修正第1項（言論の自由）の縮小解釈を主張するなど、論争を呼ぶ政策提言も行いました。

言論誌の創刊と編集

クリストルは、政治、文化を扱う言論誌『ザ・パブリック・インタレスト』、国際関係論を扱う言論誌『ザ・ナショナル・インタレスト』を創刊しました。『ザ・パブリック・インタレスト』では、ダニエル・ベル、ネイサン・グレイザーと共に編集委員を務め、『ザ・ナショナル・インタレスト』では発行人を務めました。これらの言論誌を通じて、彼は自身の思想を広く社会に発信しました。

「ネオコン」としての自己認識

クリストルは、「ネオコン」という言葉を自称した最初の人物の一人であり、自らを「ネオ」の概念を常に持っていたと語っています。「ネオマルクシスト」、「ネオトロツキスト」、「ネオリベラル」、そして「ネオ保守主義者」というように、常に既存の思想の枠にとらわれない立場を取ってきたと述べています。

日本への影響

クリストルの思想は、日本の政界にも影響を与えました。2004年には、当時の自民党幹事長であった安倍晋三がアメリカン・エンタープライズ研究所で講演した際に、クリストルに敬意を表し、彼の発言を引用しました。

主な著書

Neoconservatism: The Autobiography of an Idea (1995)
Reflections of a Neoconservative: Looking Back, Looking Ahead (1983)
Two Cheers for Capitalism (1978)
On the Democratic Idea in America
* The American Revolution as a successful revolution (1973)

晩年

クリストルは、晩年までアメリカの保守主義運動に大きな影響を与え続けました。彼は、その思想、言論活動を通じて、アメリカの政治、文化に大きな足跡を残しました。

クリストルの思想は、現代の保守主義を理解する上で不可欠な要素であり、彼の業績は、今後も多くの人々に影響を与え続けるでしょう。

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