イアン・ペイズリー

イアン・リチャード・カイル・ペイズリー（1926年4月6日-2014年9月12日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて北アイルランドで最も影響力を持った宗教指導者、政治家のひとりです。バプテスト教会の牧師の家に生まれ、1946年に牧師に叙任されると、1951年にはアルスター自由長老派教会を設立しました。

ペイズリーは、聖書に忠実な解釈に基づく厳格なプロテスタント主義を掲げ、カトリック教会やローマ教皇を激しく批判することで知られていました。彼はローマ教皇を「反キリスト」と呼び、1988年には欧州議会で教皇ヨハネ・パウロ2世の演説を妨害するなど、強硬な姿勢を貫きました。また、同性愛にも反対の立場を取り、社会問題において保守的な主張を展開しました。

北アイルランド紛争においては、ペイズリーはユニオニスト（連合王国維持派）運動の強力な指導者として活躍しました。1950年代後半からユニオニスト・ロイヤリスト（王党派）として活動を開始し、アルスター・プロテスタント・アクション（UPA）に参加するなど、カトリック系住民との対立を激化させた時期もありました。その過激な言動により、複数回の逮捕歴も持ちます。

1970年にはイギリス総選挙に立候補し、初当選を果たします。その後、1971年にはデズモンド・ボアールと共に民主連合党（DUP）を結成しました。DUPは、北アイルランドにおけるユニオニスト勢力の主要政党となり、ペイズリーは党首として、北アイルランド紛争における和平交渉においても重要な役割を果たしました。サニングデール協定やアングロ・アイリッシュ協定に強く反対するなど、強硬な姿勢を崩さなかったことから「Dr. No」の異名でも知られました。

しかし、長年の紛争の末、2006年のセント・アンドリューズ合意に合意。ペイズリーは、シン・フェイン党のマーティン・マクギネスと、初めて北アイルランド自治政府の首相と副首相の座を分担することとなり、長年の敵対関係に終止符を打ちました。これは、北アイルランド和平プロセスにおける画期的な出来事として評価されています。

2008年には、北アイルランド自治政府首相を辞任し、政界を引退しました。彼の政治的遺産は複雑で、強い批判とともに、ユニオニズムにおける指導者としての功績も認められています。2014年に死去するまで、北アイルランド社会に多大な影響を与え続けました。彼の生涯は、北アイルランド紛争の複雑さと、宗教、政治、社会問題が複雑に絡み合う歴史を理解する上で重要な視点を提供しています。 彼の業績と人となりは、現在もなお議論の的となっていますが、北アイルランドの歴史において重要な人物であることは間違いありません。

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