イエメン王国

イエメン・ムタワッキリテ王国：知られざるアラビア半島の王国

イエメン・ムタワッキリテ王国、通称イエメン王国は、1918年から1970年まで、現在のイエメン西部に存在した国家です。アラビア語では「المملكة المتوكلية اليمنية (al-Mamlakah al-Mutawakkilīyah al-Yamanīyah)」と表記されます。

建国と変遷

その起源は、897年にまで遡ります。シーア派の一派であるザイード派のイマームがイエメンに拠点を築き、その子孫であるラシード家からイマームが選出され、この地を統治しました。時には他王朝の支配下に入ることもありましたが、連綿と統治を続けてきたのです。1918年10月30日、当時のイマーム、アル＝ムワッタキル・ヤヒヤ・ムハンマド・ハミードゥッディーンがオスマン帝国からの独立を宣言し、王制を確立しました。

1958年には、エジプトとシリアが合併して成立したアラブ連合共和国との間でアラブ国家連合を構成しましたが、1961年にシリアが独立し、アラブ連合共和国が崩壊したため、この連合も解消されました。

しかし、1962年、王制は打倒され、汎アラブ主義を掲げる新政府、イエメン・アラブ共和国が成立します。王制派はサウジアラビアに亡命政府を樹立し、イエメン・アラブ共和国政府との間で1970年まで内戦が続きました。

国名について

正式名称は、アラビア語で「アル・マムラカ・アル・ムタワッキリーヤ・アル・ヤマニーヤ (المملكة المتوكلية اليمنية al-Mamlakah al-Mutawakkilīyah al-Yamanīyah)」です。日本語ではイエメン・ムタワッキル王国、または通称としてイエメン王国と呼ばれます。

1947年9月30日に国際連合に加盟した際、イエメン王国は「イエメン (Yemen)」を代表する国家として加入しました。当時、イエメンを名乗る唯一の国家であったためです。しかし、王国崩壊後に成立したイエメン・アラブ共和国と、南イエメンがイエメンを名乗る別個の国家として独立したことで、イエメン・アラブ共和国は「北イエメン」と通称されるようになりました。そのため、今日ではイエメン王国を、イエメン・アラブ共和国から歴史的に遡及して「北イエメン」と呼ぶこともあります。

曖昧な国境線

1934年、サウジアラビアとイエメン王国の間で交戦状態が発生しました。停戦時に結ばれたターイフ条約では、国境線の画定が先延ばしにされたため、20世紀を通じて国境線は曖昧な状態が続きました。この国境問題は、その後のイエメンの歴史にも大きな影響を与えたと言えるでしょう。

イエメン・ムタワッキリテ王国は、その短い歴史の中で、アラブ世界における政治的変動に翻弄され、内戦という悲劇を経験しました。しかし、その存在は、現代のイエメンを理解する上で欠かすことのできない重要な要素です。

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