イギリスのタワー・ブロック

タワー・ブロックの歴史と影響

タワー・ブロック（tower block）は、イギリスにおける高層住宅を指す言葉であり、特に第二次世界大戦後から1960年代にかけて急増しました。この建築スタイルは、戦時中に被害を受けた住宅の代わりとして、また老朽化した19世紀の住宅に対処するために導入されました。初めてのタワー・ブロックとされる「ザ・ローン」は、1951年にエセックス州ハーロウで建設され、現在は重要文化財に指定されています。しかし、タワー・ブロックの設計とその後の社会的影響については、様々な意見があります。

元々、タワー・ブロックは、従来のテラスハウスに比べて成長した都市の人口を受け入れるために、より広い間取りと良好な眺望を提供することを目指していました。そのため、タワー・ブロックの建設は、当時の都市計画家や建築家に歓迎され、未来的な象徴として位置付けられました。しかし、建設後の劣化や犯罪の増加などが問題視されるようになり、次第に不人気となっていきました。

デザインと建設の背景

戦後の建設ブームの中、タワー・ブロックは地方行政の手により促進されました。この時期、多くの地方行政がタワー・ブロックを建設することにより、市民に良い印象を与えようとしました。特に、ル・コルビュジエの思想に影響を受けた建築家たちは、機能性を重視し、経費の節約を図ろうとしました。その結果、工業化された建設技術を使用し、標準化された部材が多くのタワー・ブロックで共通して見られるようになりました。

新たなタワー・ブロックは、ブルータリズムの影響を受け、コンクリートのむき出しの構造が多く取り入れられました。このスタイルは、シンプルで強靭な印象を与えましたが、時間の経過とともに、メンテナンスの問題や設計上の欠陥が顕在化し、多くのタワー・ブロックが住環境としての機能を失っていきました。

社会的な影響と問題

アリス・コールマンの著書『Utopia on Trial』では、タワー・ブロックの建設が逆に社会問題を悪化させたと指摘しています。初期の期待とは裏腹に、多くのタワー・ブロックは「空中のスラム」と化し、犯罪の増加や住民同士の交流の欠如を引き起こしました。また、タワー・ブロックはメンテナンスが行き届かず、住民は周囲の空間を利用できないと感じ、孤立感が生まれる要因ともなりました。

共用エレベーターの故障や、計画されていたコミュニティスペースの無駄に怠慢な管理は、住民たちに不安をもたらしました。犯罪の発生率が高まる中、住民は日常生活の中で恐怖感を抱くことが常となり、タワー・ブロックは周囲から距離を置かれる存在となりました。

防火と近年の事例

タワー・ブロックに関する最近の問題の一つは、防火に関する課題です。例えば、2017年にロンドンで発生したグレンフェル・タワーの火災は、多くの死者を出しました。この火災は、不適切な被覆材の使用が原因とされ、住民に対する避難指示が致命的でした。このような事件は、タワー・ブロックの設計と管理における重大な欠陥を浮き彫りにしました。

現在の状況と未来への展望

近年、タワー・ブロックの再開発が進み、若年層向けの集合住宅としての再利用が試みられています。しかし、これらの新しい建物は、従来の下層階級向けのタワー・ブロックとは異なり、裕福な専門職向けに建設されることが多く、格差の是正には繋がらないかもしれません。

タワー・ブロックの歴史は、イギリスの都市計画における重要な教訓となっており、今後の建設においては、過去の失敗を踏まえたコミュニティの構築が必要です。自治体や開発者は、より持続可能で住民に配慮した設計を追求し続けることが求められています。

もう一度検索