イギリス・フォード

イギリスにおけるフォードの歴史：モデルTから欧州統合まで

イギリスの自動車産業において、フォードは重要な役割を果たしました。アメリカ合衆国のフォード・モーターのイギリス法人として設立されたイギリス・フォード（Ford Motor Company Limited）は、通称「ブリティッシュ・フォード」として知られ、乗用車、商用車、トラクターの生産と販売を展開しました。その歴史は、20世紀初頭からのイギリス自動車産業の発展と深く結びついています。

進出期（1903-1918年）

1903年、3台のフォード・モデルAがイギリスに輸入されたことが、フォードのイギリス進出の始まりです。1909年、ロンドンにフォード・モーター（イングランド）社が設立され、1911年にはマンチェスターに最初の工場が開設されました。この工場は、北米以外で初めて設立されたフォードの工場であり、モデルTの生産を開始しました。当初はノックダウン生産でしたが、1914年にはイギリス初の自動車量産ラインが完成し、生産能力が飛躍的に向上しました。

1913年には6000台のモデルTが生産され、当時イギリスで最も売れた車となり、市場シェアの30％を占めました。これは、当時イギリスの自動車産業が大量生産技術において遅れていたことを示しており、フォードの進出はイギリスの自動車産業に大きな変革をもたらしました。第一次世界大戦では、フォード車は軍用車として広く使用されました。1917年にはアイルランド南部のコークにも工場が開設され、トラクターや自動車の生産が行われました。

転換期（1918-1939年）

第一次世界大戦後、イギリスの自動車メーカーは小型・中型車の生産に注力するようになり、フォードは市場での優位性を維持するために、生産体制の強化を図りました。1923年には、イースト・ロンドンのダゲナムに新しい工場が建設され、1931年に完成しました。この工場は、当時ヨーロッパ最大の自動車工場であり、モデルAの生産が行われました。しかし、モデルAはイギリス市場では高価すぎるという問題があり、当初の販売は低迷しました。

そこで、1932年に小型車モデルYが発表されました。これは、イギリスの税制に合わせた排気量で、低価格で市場に受け入れられました。「ベビー・フォード」と呼ばれたこのモデルは、大きな成功を収め、市場シェアの41％を占めるまでになりました。また、アメリカで生産されたV型8気筒エンジン搭載の中級モデルも、イギリス市場で一定の需要を獲得しました。

第二次世界大戦時

第二次世界大戦中、イギリス・フォードは民間車生産を中止し、軍用車両や航空機エンジンの生産に転換しました。ダゲナム工場は36万台以上の車両を、マンチェスターの工場はロールス・ロイス・マーリンエンジンを大量生産し、戦争遂行に貢献しました。

戦後期（1945-1967年）

終戦後、イギリス・フォードは民間車生産を再開しました。戦前モデルの改良版を生産した後、1950年には中級車「コンサル」と「ゼファー」、1954年には小型車「アングリア」と「プリフェクト」を発表しました。これらのモデルは、近代的なデザインと技術を採用しており、イギリスの他のメーカーをリードしました。イギリス・フォードは、アメリカ本国の技術を積極的に導入し、イギリスの自動車産業の発展に貢献しました。1960年代には、多くの工場を建設・買収し従業員数も増加しました。商用車部門は「フォードソン・テームズ」として知られ、様々なモデルを生産しました。1986年にイタリアのイヴェコに売却されました。

スポーツカーと欧州統合

1960年代には、国際スポーツカーレースに参戦するGT40を開発し、大きな成功を収めました。1967年には欧州フォードに統合され、イギリスの自動車産業におけるフォードの歴史は新たな局面を迎えました。

モデル一覧

イギリス・フォードは、モデルT、モデルA、モデルY、アングリア、プリフェクト、コンサル、ゼファー、ゾディアック、エスコート、カプリ、GT40など、数多くの象徴的なモデルを生産しました。これらのモデルは、イギリスの自動車文化に大きな影響を与えました。

まとめ

イギリス・フォードは、1903年の進出以来、イギリスの自動車産業に大きな貢献を果たしました。モデルTの導入による大量生産技術の導入、第二次世界大戦中の軍需生産、そして戦後の近代化と欧州統合まで、その歴史は激動の時代と深く関わっています。イギリス・フォードの功績は、今日のイギリスの自動車産業の礎となっています。

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