イスマイル・サブリ・ヤアコブ

イスマイル・サブリ・ビン・ヤアコブ（Ismail Sabri bin Yaakob）は、1960年1月18日生まれのマレーシアの政治家です。2021年8月21日から2022年11月24日まで、マレーシアの第9代首相を務めました。2004年3月以降、ベラ選挙区選出の代議院（下院）議員を務めています。

政治キャリア

2020年3月から2021年8月にかけて、ムヒディン・ヤシン首相の国民同盟（PN）政権で安全保障担当上級大臣と国防大臣を兼務しました。2021年7月から8月には第13代副首相を務めましたが、その在任期間はわずか40日と、マレーシア史上最短の副首相でした。統一マレー国民組織（UMNO）の副党首でもあります。UMNOは、国民戦線という政党連合の主要構成政党であり、国民戦線はさらに他の政党とともに国民同盟という連立政権を構成しています。

過去には、2008年3月から2018年5月の選挙まで、国民戦線（BN）政権で地方開発大臣、農業・農業関連産業大臣、国内取引・協同組合・消費問題担当大臣、青年・スポーツ大臣など、複数の閣僚を歴任しました。2019年3月から2020年2月には、希望同盟政権下で第15代野党リーダーを務めました。国民同盟政権では、2020年3月から安全保障担当上級大臣に任命され、2021年7月には副首相に昇進しました。イスマイルの所属するUMNOは、COVID-19パンデミックへの政府の対応に不満を抱き、ムヒディン首相への支持を撤回しましたが、イスマイル自身はムヒディンを支持し続けました。ムヒディンの辞任後、過半数の議員の支持を得て2021年8月に首相に就任しましたが、2022年11月の総選挙では予想外に伸び悩み、首相を退任しました。

イスマイルは、マレー人の卓越性を支持する発言をたびたび行い、物議を醸しています。

生い立ちと教育

マレーシアのパハン州テメルローで生まれました。1980年にマラヤ大学法学部に入学し、法学士号を取得しました。彼の法学士論文のタイトルは「マレーシアにおける政治犯の扱い」です。

職歴

1985年に弁護士資格を取得しました。1987年にはテメルロー地区議会議員、1996年にはテメルロー市議会議員に任命されました。1995年には、文化・芸術・観光省のサバルディン・チック大臣の政務官に任命されました。また、1995年にはパハン東南地区委員会（DARA）の理事、同年にはマレーシア観光促進委員会の理事も務めました。2004年に国会議員になる前には、全国スポーツ複合施設の会長を務めていました。

政治家として

UMNO副党首（2019年 - 現在）
2018年12月20日、当時の副党首が事実上党首に就任したことを受け、新たにUMNOの副党首となりました。2019年、アハマド・ザヒド・ハミディが野党リーダーを退任したため、議会の野党リーダーに就任しました。

マレーシア国防大臣兼上級大臣（安全保障担当）（2020年 - 2021年）
希望同盟政権崩壊後の2020年3月、ムヒディン・ヤシン首相からマレーシア上級大臣（安全保障担当）兼国防大臣に任命されました。在任中は、COVID-19パンデミック時の移動規制令（MCO）に関連する安全保障上の問題に関するブリーフィングを毎日行っていました。

マレーシア副首相（2021年）
2021年7月、国防大臣としての地位を維持したまま、ムヒディン・ヤシン首相からマレーシアの副首相に任命されました。上級大臣（安全保障担当）にはヒシャムディン・フセインが就任しました。イスマイルは、COVID-19パンデミックへの対応を巡り党内の支持が大きく揺らぐ中で、ムヒディン首相を支持し続けたUMNOの一派を率いていました。これにより、UMNO党内は分裂し、ムヒディンが議員の過半数の支持を得ているかどうかが不透明になりました。2021年8月16日、政治危機が続く中、過半数の支持を失ったムヒディンが辞任し、内閣は総辞職しました。副首相としての任期は40日で、マレーシアの副首相の中で最も短いものでした。

マレーシア首相（2021年 - 2022年）
2021年8月20日、代議院の議員220人中114人の信任を得て、アブドゥラ国王により次期首相に任命されました。翌21日に王宮で就任宣誓を行い、第9代首相に就任しましたが、任命に反対するオンライン請願書には、35万人以上の署名が集まりました。2022年3月12日のジョホール州議会選挙では、国民戦線が定数56議席中40議席を獲得し圧勝し、景気も好調であったことから、解散総選挙の機運が高まりました。10月10日に議会を解散しましたが、11月19日に執行された総選挙では、与野党ともに過半数に届きませんでした。11月24日、第1勢力となった野党連合・希望連盟を率いるアンワル・イブラヒムが新首相に任命され、イスマイルは首相を退任しました。

物議を醸した言動

ボイコットの呼びかけ
2015年2月、マレー系消費者に対して、華人系企業をボイコットすることで値下げを迫るよう促すFacebookのコメントが大きな反発を呼びました。特に、オールドタウンホワイトコーヒーという大手喫茶飲食チェーン店を名指ししたことが問題となりました。この発言に対し、UMNOの華人系友党であるマレーシア華人協会（MCA）の幹部は、「内閣の大臣として、このような民族的偏見を助長すべきではない」と批判しました。政治アナリストも、この発言が人種を問わず有権者の反感を買うだろうと指摘しました。後に、警察が扇動法に基づいて調査を開始したため、イスマイルはFacebookの投稿を削除しました。

ロー・ヤット2
2015年、マレー系の商人だけを集めたデジタルガジェットモール「ロー・ヤット2」の設立を提案しました。これは、マレーシアで有名な電子製品店であるプラザ・ロー・ヤットに対抗する目的だと主張しました。この提案に対し、MCAの当時の会長は「人種関係を悪化させるだけだ」と批判し、UMNO党員からも「マレー人とマレーシア人全般に不利益をもたらす」と批判されました。

テイラーズ大学のスポンサー契約解除
テイラーズ大学が、人種差別的なデモに大学のロゴ入りのバスを提供したとして、MARAが同大学への奨学金制度を打ち切りました。イスマイルは、この決定の理由を明確にせず、批判を浴びました。野党議員からは「個人的な復讐と権力の乱用」と非難され、内閣にイスマイルを問責するよう求められました。MCAの幹部も、イスマイルの対応を「不謹慎」で「幼稚」だと批判し、教育機関は非政治的であるべきだと主張しました。

ウミガメの卵の消費疑惑
2015年、イスマイルがシーフードレストランでウミガメの卵を食べている写真が話題になりました。亀の卵は保護対象種であり、イスマイルは健康上の理由を挙げて否定しました。その後、この件に関する報道を巡り、訴訟を起こしましたが、和解に至りました。

ベイプ産業に関する支援
2015年、イスマイルはマレーシアのベイプ（電子タバコ）産業を支持しました。これは、保健省の警告に反するものであり、多くの医師や専門家から批判を浴びました。

ヌルル・イザア・アンワル名誉毀損訴訟
2015年、野党議員のヌルル・イザア・アンワルから、国を裏切る者であると非難されたとして訴えられました。裁判所は、イスマイルの発言がヌルルの名誉を毀損したと判断し、損害賠償の支払いを命じました。

2018年総選挙前のコメント
2018年の総選挙前、イスマイルは野党への投票がマレー人の権利やイスラム教を排除する動きを強めると発言しました。この発言は、選挙を人種や宗教間の戦いに仕立て上げようとするものだと批判されました。

首相就任に対する反対の請願
2021年、イスマイルの首相就任に反対するオンライン請願書が開始され、35万人以上の署名が集まりました。請願書では、彼のCOVID-19パンデミックへの対応の失敗や、過去の人種差別的な発言が批判されました。

イスマイル・サブリ・ビン・ヤアコブは、マレーシアの政治において重要な役割を果たした人物であり、その言動は常に注目を集めています。彼の政治キャリアと物議を醸した言動は、マレーシアの政治情勢を理解する上で重要な要素と言えるでしょう。

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