イスラーム期のクレタ

イスラム期のクレタ島：地中海の十字路

イスラム期のクレタ島（820年代後半 - 961年）は、ビザンツ帝国領だったクレタ島に、イベリア半島（アンダルス）から追放されたアラブ人たちが侵入し、支配を確立した時代を指します。彼らは事実上独立した政権を築き、アミールを名乗り、アッバース朝カリフへの臣従を誓い、エジプトのトゥールーン朝とも連携しました。

アンダルス人による征服と支配

824年頃、アンダルスから来たアラブ人たちはクレタ島を征服し、独自の勢力を築きました。ビザンツ帝国は奪還を試みましたが失敗し、クレタは135年ほど独立を保ちます。この間、クレタは東地中海のシーレーンを支配し、イスラム海賊の拠点としてビザンツ帝国を苦しめました。

当時の記録は少ないものの、クレタのアラブ人は海賊行為だけでなく、広域貿易や農業にも力を入れていたと考えられています。彼らは地中海の交易ルートを掌握し、経済的な繁栄を築き上げました。

クレタ首長国（Emirate of Crete）

この政権は、日本語では「クレタ島のアンダルス人政権」などと表現されることが多いですが、英語圏では「Emirate of Crete（クレタ首長国）」と呼ばれることもあります。ただし、「首長国」という訳語は一般的ではありません。

ビザンツ帝国の奪還

960年から961年にかけて、ビザンツ帝国のニケフォロス・フォカスによる大規模な遠征が行われ、クレタ島のアラブ人勢力は終焉を迎えました。島はビザンツ帝国の支配下に戻り、キリスト教が再興されました。

歴史

クレタ島は7世紀からイスラム勢力による襲撃を受けており、一時的に占領されたこともありました。しかし、本格的な征服は9世紀前半に、アンダルスから来たアラブ人たちによって行われました。

彼らはアレクサンドリアを追われた後、アブー・ハフスという指導者の下でクレタ島に上陸し、島を征服しました。上陸地点や征服の過程については諸説ありますが、彼らは島全体を徐々に掌握していきました。

海賊の島としての側面

アブー・ハフスはハンダクス（現在のイラクリオン）を建設し、首都としました。彼はアッバース朝のカリフの宗主権を認めつつも、事実上独立した統治を行いました。クレタ島のアンダルス人たちは、エーゲ海で海賊行為を繰り返し、ビザンツ帝国を悩ませました。彼らはキュクラデス諸島の一部も占領しましたが、ビザンツ艦隊によって撃退されました。

ビザンツ帝国の反撃とクレタの脅威

ビザンツ帝国はクレタの脅威に対抗するため、新たな海軍テマを設置し、クレタ島奪還のための遠征を繰り返しました。しかし、テオクティストスの遠征は失敗に終わり、クレタのアラブ人はエーゲ海での略奪を続けました。

870年代には、クレタ艦隊はマルマラ海にまで侵入し、コンスタンティノープルを攻撃しました。その後、ビザンツ軍によって撃退され、一時的に貢納を強いられましたが、すぐに襲撃を再開しました。

再征服とその後

930年代から940年代にかけて、クレタの海賊行為は再び激化し、ビザンツ帝国は新たな遠征を計画しました。そして960年、ニケフォロス・フォカス率いるビザンツ軍がクレタ島に上陸し、ハンダクスを包囲しました。961年、ハンダクスは陥落し、クレタ島はビザンツ帝国の支配下に戻りました。

遺産

イスラム期のクレタ島に関する史料は少なく、その歴史は不明な点が多いです。ビザンツ側の記録では、クレタは「海賊の巣窟」と見なされていましたが、イスラム側の記録からは、秩序だった経済と貿易を持つ国家であったことが伺えます。

当時、クレタ島では農業も発展し、サトウキビが導入された可能性もあります。また、キリスト教徒は改宗や追放されたと考えられていますが、一部は生き残り、農村部で生活していたようです。

アミールの一覧

アラビア語史料などから、クレタのアミールの名前と継承順を知ることができます。彼らは男系子孫による世襲で地位を継承していました。

イスラム期のクレタ島は、地中海の歴史において重要な役割を果たしました。アンダルス人による支配は、ビザンツ帝国との対立を生み、地中海の勢力図を大きく変えることになったのです。

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