イソッタ・フラスキーニ・ティーポ6 LMH-C

イソッタ・フラスキーニ・ティーポ6 LMHコンペティツィオーネ：復活のブランドと挫折の物語

かつて高級車の代名詞として名を馳せたイタリアの自動車メーカー、イソッタ・フラスキーニ。そのブランドが現代に復活し、世界最高峰の耐久レース、FIA世界耐久選手権(WEC)に挑むというニュースは、世界中のモータースポーツファンを驚かせました。その挑戦を体現するマシンこそが、イソッタ・フラスキーニ・ティーポ6 LMHコンペティツィオーネです。

開発からWEC参戦への道のり

2022年10月、イソッタ・フラスキーニはWEC参戦を表明。翌2023年3月には、[ル・マン・ハイパーカー]規格に準拠したティーポ6 LMHコンペティツィオーネ（ティーポ6 LMH-C、ティーポ6-Cとも表記）の正式発表を行いました。

このマシン開発には、イタリアのコンポジットメーカーであるARS社と、フェラーリのレーシングカー開発に長年携わってきたミケロット社が参加。空力開発は、F1チームとして名高いウィリアムズの風洞施設で行われました。心臓部となるエンジンは、ドイツのHWA社と共同開発した3リットルV6シングルターボエンジン。さらに、フロントアクスルにボッシュ製の200kW（約270馬力）のハイブリッドシステムを搭載し、システム出力700馬力、四輪駆動というパワフルな仕様となっています。

グリッケンハウスやヴァンウォールといったプライベーターチームがノンハイブリッドのLMHマシンを開発する中、ティーポ6 LMHコンペティツィオーネは、プライベーター勢で初のハイブリッドシステム搭載車という点で大きな注目を集めました。

2023年4月にはシェイクダウン、7月にはモンツァ・サーキットでテスト走行とデモ走行を実施。その後もイタリア国内でテストを続けましたが、当初目標としていた2023年シーズン中のスポット参戦は叶いませんでした。しかし、2024年シーズンへのエントリーは認められ、本格的なWEC参戦への準備を進めていました。

なお、イソッタ・フラスキーニは、サーキット走行専用の「Pista（ピスタ）」と公道走行可能な「Strada（ストラーダ）」という市販モデルも計画。モンツァでのデモ走行後にコンペティツィオーネ仕様に換装されたPista、そして、2023年11月にはStradaがミラノ市内を走行する様子が確認されています。

2024年シーズンと突然の撤退

2024年シーズン、イソッタ・フラスキーニは満を持してWECに参戦。チーム名はIsotta Fraschini Tipo6-Cと変更されました。当初はイギリスのベクター・スポーツと提携していましたが、契約上の問題からベクター・スポーツが離脱。フランスのデュケーヌがチーム運営を引き継ぎました。

ドライバー陣は、当初ジャン＝カール・ベルネイとアレッハンドロ・ガルシア（2023年ヨーロピアン・ル・マン・シリーズLMP3クラスチャンピオン）が発表されていましたが、2月に体制変更を発表。ガルシアに代わり、アロンソ・アカデミー出身のカール・ベネットが起用され、アントニオ・セッラバッレを加えた3名体制で参戦することになりました。

しかし、第6戦（ローン・スター・ル・マン）を目前に控えた8月21日、イソッタ・フラスキーニはWECからの即時撤退を発表。その理由として、チーム運営を行うデュケーヌとの「意見の不一致」を挙げました。復活を遂げたブランドのWEC挑戦は、突如として幕を閉じました。

まとめ

イソッタ・フラスキーニ・ティーポ6 LMHコンペティツィオーネは、復活を遂げた名門ブランドの意気込みと、最新の技術が凝縮されたマシンでした。しかし、WEC参戦は短期間で終わりを告げ、多くのファンに衝撃と落胆を与えました。その背景には、チーム運営や契約上の問題、様々な要因が絡み合っていたと考えられます。ティーポ6 LMHコンペティツィオーネの物語は、成功と挫折が交錯する、モータースポーツ界における一つのドラマとして記憶されるでしょう。今後のイソッタ・フラスキーニの動向に注目が集まります。

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