イタリアの国章

イタリア共和国の国章は、1948年5月5日、エンリコ・デ・ニコラ初代大統領によって公布されました。厳密には紋章ではなく、エンブレムと呼ぶのが正確です。ヨーロッパの伝統的な紋章学とは異なる独自の意匠が用いられているためです。

このエンブレムの中心には、赤で縁取られた白い五芒星が描かれています。これはイタリアの世俗の象徴であり、「イタリアの星」と呼ばれています。イタリア統一運動のシンボルとして用いられ、1870年から1890年にかけてのイタリア王国国章にも見られます。第二次世界大戦後の復興に貢献した人々に贈られた勲章にもこの星が用いられており、イタリアのアイデンティティを強く表すものです。

五芒星の背景には、五つのスポークを持つ歯車が描かれています。これは、イタリア共和国憲法第1条に記されている「イタリアは、労働の上に築かれる民主主義の共和国である」という理念を表しています。歯車の形状は、イタリア各地の都市の紋章にも見られるデザインで、イタリアの産業と社会構造を象徴しています。

歯車の両側には、オリーブの枝とオークの枝が配されています。オリーブの枝は平和を、オークの枝は国民の力強さと尊厳を表しています。オリーブとオークは共にイタリアの風景を彩る植物であり、自然と国民の結びつきを象徴していると言えるでしょう。これらの枝は、赤いリボンで結び合わされており、リボンには「REPVBBLICA ITALIANA」（イタリア共和国）と大文字で書かれています。

このエンブレムのデザインは、一般公募を経て決定されました。1946年、第二次世界大戦後の混乱期、旧王制の象徴であった国章を廃止し、新たな共和国の象徴を作る必要がありました。公募には「イタリアの世俗の象徴である白い五芒星を含むこと」という条件が設けられ、多くの応募がありました。最終的に、パオロ・パスチェット教授のデザイン案が選ばれ、1948年に正式に国章として制定されたのです。

第二次世界大戦以前のイタリア王国は、サヴォイア王家の紋章を基にした国章を用いていました。しかし、ファシスト党政権下では、サポーターであったライオンがファッショ（束桿）に置き換えられました。共和国の成立とともに、こうした王政時代の象徴は完全に過去のものとなり、新しい時代の幕開けを告げるエンブレムが誕生したのです。

イタリア共和国のエンブレムは、単なるデザインではなく、イタリアの歴史、文化、そして国民の理念を凝縮した象徴です。白い五芒星、歯車、オリーブとオークの枝、そして「REPVBBLICA ITALIANA」という文字、それぞれの要素が調和して、イタリア共和国のアイデンティティを鮮やかに表現していると言えるでしょう。

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