イッツ・ハード

ザ・フー、終焉と再生の狭間で生まれた『イッツ・ハード』

『イッツ・ハード』は、ザ・フーが1982年に発表したオリジナルアルバムです。バンドにとって、一旦解散前最後の作品であり、ジョン・エントウィッスルとケニー・ジョーンズが参加した最後のアルバムでもあります。イギリスで11位、アメリカで8位を記録しました。

制作背景

前作『フェイス・ダンシズ』で復活を印象付けたザ・フーでしたが、メンバー間の亀裂は深まっていました。キース・ムーンの死後、ピート・タウンゼントのソロ活動が活発化し、ジョーンズが「いい楽曲をソロに回している」と批判。さらに、ダルトリーがジョーンズのドラムプレイに不満を漏らすなど、バンド内の不協和音は隠せなくなっていました。タウンゼント自身も、妻との関係悪化や過去のドラッグ依存の再発など、苦しい時期を過ごしていました。一時は心肺停止になるほどの深刻な状況に陥り、リハビリを経て回復したものの、バンドの終焉は誰の目にも明らかでした。

ソロアルバム『チャイニーズ・アイズ』の制作を終えたタウンゼントは、アメリカでの配給先であるワーナー・ブラザースとの契約を果たすため、新作アルバムの制作に着手します。プロデューサーには、旧知のグリン・ジョンズを迎え、1982年6月よりレコーディングを開始。アンディ・フェアウェザー・ロウ、ティム・ゴーマンがゲスト参加しました。本作制作時にはバンドの解散は決定事項だったと言われています。

楽曲と評価

タウンゼントは本作について「ザ・フーの作品の中でも一番攻撃的だ」と語る一方で、ダルトリーは完成時に「こんなゴミは出すべきじゃない」と言い放ったとされています。「アセーナ」、「エミネンス・フロント」、「イッツ・ハード」がシングルカットされ、「アセーナ」はアメリカで28位を記録、バンドにとって最後のアメリカでのトップ40ヒットとなりました。

アルバムの評価は賛否両論でした。ローリングストーン誌は好意的に評価しましたが、オールミュージックやロバート・クリストガウからは手厳しい批評が寄せられました。本作リリース後、バンドは「フェアウェル・ツアー」を開催し、一旦解散。その後、ライヴ・エイドでの再結成を経て、1989年から本格的なツアー活動を再開しますが、新作アルバムが制作されるのは、本作から24年後のことでした。

その後

1997年にはリミックス/リマスターCDがリリースされ、2011年には日本限定でリマスター版がリリースされました。

『イッツ・ハード』は、ザ・フーの歴史において、終焉と再生の狭間で生まれた複雑な作品と言えるでしょう。メンバー間の不和やタウンゼントの苦悩が色濃く反映され、評価は分かれるものの、バンドの終焉と新たな幕開けを感じさせる重要な作品です。

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