イトカメムシ

イトカメムシ（学名：Yemma exilis）は、カメムシ目イトカメムシ科に分類される昆虫の一種です。その最大の特徴は、体だけでなく、触角や脚もまるで糸のように細長く伸びている点にあります。この独特の形態から、イトカメムシという和名がつけられました。

成虫の体長は約6ミリメートルほどですが、その印象は数値以上に細く華奢です。体全体は淡い黄色をしており、生きている間はしばしば緑色を帯びて見えます。頭部は縦に細長く、中央付近には横向きの溝があります。この溝より前の側方に位置する複眼は半球状に突き出し、黒い色をしています。単眼は、その横溝のすぐ後ろに位置しています。

触角は、体長を大きく上回る約9.5ミリメートルもの長さがあり、こちらも非常に細く伸びています。触角は4つの節からなり、最も長いのは第1節で、その先端はわずかに膨らんでいます。第2節と第3節は触角全体の中で最も細く、先端の第4節は短く、棍棒のような形をしています。最先端の節を除いて、触角の大部分は黒色をしています。

前胸背には、網の目のような構造が見られることがあります。小楯板には、針のようにまっすぐに伸びる突起がある場合もあります。また、カメムシが持つ臭腺の開口部は、周囲が鉤状に突き出した構造の先端に開いています。

前翅は非常に薄く透明で、腹部の後端には達しません。脈は黄色く、光の当たり方によっては虹のような光沢を放ちます。腹部の背面はやや暗い色をしていますが、体の腹面は全体的に淡い黄色です。

歩脚もまた非常に細く、淡い黄色を基調とし、淡い褐色の微細な斑点が散りばめられています。脛節の先端と跗節は褐色です。腿節は先端が膨らんでおり、脛節が最も長い節となっています。特に後肢の脛節は顕著に長いです。

イトカメムシは、主にキリ、ゴマ、クサイチゴ、クズといった様々な植物の葉の上で生活しています。基本的には植物の汁を吸う植食性ですが、稀にアブラムシなどの小型の昆虫を捕らえて捕食することもあり、部分的に肉食性を示すことも知られています。

日本では、本州、四国、九州、そして対馬に分布しています。日本国外では、朝鮮半島からの記録があります。

イトカメムシ科に属するカメムシは、全般的に体が細長く、触角や歩脚も細く長い傾向がありますが、特にイトカメムシ属の種は、その中でも際立って細長い形態をしています。日本では、イトカメムシ属には本種（Yemma exilis）のみが確認されています。

比較的似ているカメムシとして、イトカメムシ科の別の属に属するヒメイトカメムシ（Metacanthus pulchellus）が挙げられます。ヒメイトカメムシも同様に草木の葉上で見られ、時にイトカメムシと一緒に生息していることもあります。しかし、ヒメイトカメムシは体長が約4ミリメートルとイトカメムシよりもやや小さく、また触角や歩脚にはっきりとした環状の斑紋がある点などから、イトカメムシと区別することができます。

イトカメムシは、まれにダイズに寄生することが報告されており、この点から農業上の害虫として扱われることもあります。主にダイズの葉や茎から汁を吸いますが、時には莢に付着することもあるようです。しかし、イトカメムシによるダイズへの被害は、通常、農業上の問題となるほど深刻ではないと考えられています。

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