イトカメムシ科

イトカメムシ科 (Berytidae)

イトカメムシ科は、カメムシ亜目・ナガカメムシ上科に分類される昆虫の一群です。その最も顕著な特徴は、和名にも現れている通り、非常に細長く伸びた体と、それに比べて驚くほど細く、まるで糸のように見える触角および歩脚です。このような独特な形態は、カメムシの中でも特異な存在感を放っています。

特徴的な形態

イトカメムシ科の成虫は、体長が2.5mm程度の小さなものから、11mmに達するものまで多様なサイズがあります。共通して細長い体形をしていますが、詳細に見ると様々な形態的な特徴が見られます。

細く長い触角は明確に4つの節から構成されています。また、長く伸びた歩脚は、特に腿節（大腿部）の先端がわずかに太くなる傾向があります。これらの付属肢が糸のように細いことで、全体的に華奢な印象を与えます。

しかし、単に細いだけでなく、よく観察すると頭部や前胸部の背面に、針のような棘状の突起や、丸みを帯びた球状の突起を持つ種が多くいることも特徴です。これらの突起は比較的小さいため目立ちにくいことがありますが、種の識別において重要な要素となります。さらに、カメムシ特有の臭腺が開口する部分の周囲が、特に突き出ている種が多く見られることも、イトカメムシ科の形態的な特色の一つと言えます。

生態と食性

イトカメムシ科の昆虫は、主に植物の上で生活しています。その多くは植食性であり、植物の茎や葉から口吻を刺し込み、植物の汁を吸って栄養を得ています。しかし、すべての種が完全に植食性であるわけではなく、一部の種では、アブラムシや小さなハエのような小型の昆虫を積極的に捕らえて食べる肉食性を示すことが知られています。このように、彼らの食性には多様性がある可能性が示唆されていますが、残念ながらその詳しい生活史や生態については、まだ多くの種で十分に明らかにされていません。

分類

イトカメムシ科は比較的小規模なグループであり、世界中から現在までに約45属160種ほどが確認されています。これらはさらに3つの亜科に分けられています。

日本列島においては、これまでに以下の6種が記録されています。

イトカメムシ科 (Berytidae)
イトカメムシ亜科 (Metacanthinae)
ツノイトカメムシ属 (Capyella)
ヤエヤマツノイトカメムシ (C. horoni)
ヒメイトカメムシ属 (Metacanthus)
ヒメイトカメムシ (M. pulchellus)
オオイトカメムシ属 (Metatropis)
アカオオイトカメムシ (M. brevirostris)
オオイトカメムシ (M. rufescens)
イトカメムシ属 (Yemma)
イトカメムシ (Y. exilis)
トゲイトカメムシ亜科 (Gampsocorinae)
トゲイトカメムシ属 (Gampsocoris)
トゲイトカメムシ (G. pacificus)

これらの種は、それぞれの属や亜科の特徴を持ちながら、イトカメムシ科全体に共通する細長い体と糸状の付属肢という独特な形態を示しています。

参考文献

石川忠他編、『日本原色カメムシ図鑑 第3巻』、全国農村教育協会 (2012)
安永智秀他、『全農協 観察と発見シリーズ カメムシ博士入門』、全国農村教育協会 (2018)

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