イヌシタムシ

イヌシタムシ（Linguatula serrata）

イヌシタムシは、甲殻類に属する舌形動物の一種で、特に肉食哺乳類に寄生します。その形状は、やや平らで細長く、舌を連想させる特徴があります。主に犬やフォックス、オオカミといった肉食性の動物の鼻腔内に見られ、感染した場合、人間に影響を及ぼすこともあります。

形態

成体のイヌシタムシには雄と雌があり、雌は最大12センチ、雄は約2センチ程度です。生きている状態では、体は透明感のある白色で、赤みがかった内部が目立つことがあります。寄生対象の犬の鼻腔粘膜を取込むと、しばしば緑色を帯びることもあります。

その体形は、前部が幅広く、腹背が平らで、後にかけて細くなり舌状をしています。体表面には約90個の環状の小さな体節が存在し、後方の感覚器は発達していません。前端には短い感覚乳頭と、五つのくぼみがあり、その中央部が口となっています。口は頑強なキチンの環で守られ、これにより宿主から血液を吸引するのに適しています。

生態

イヌシタムシは、主に大型の哺乳類の鼻腔に寄生し、そこに分泌された粘液や組織の残りを食べることで生きています。このような食性から、鼻腔内の環境に高度に適応していることが伺えます。

生活史

イヌシタムシは非常に複雑な生活史を持っており、最初に中間宿主を必要とします。雌成体は宿主の鼻腔内で卵を産み、これが宿主の体外に出ると、草食性哺乳類によって摂取されることが多いです。卵は中の胚が成長し、最初の幼形成長段階である第一次幼生を形成します。

この幼生は楕円形で、先端には穿孔器、側面には二対の鉤状の足を持つ独特な形態です。成長過程で、リンパ系を経由して肺や肝臓などの器官に移動し、被嚢幼生として結合組織内で生活を続けます。ここでの成長を経て、次第に成体に近い形態に変わり、最終的には宿主の胸腔や腹腔に至ります。

イヌやその他の肉食哺乳類がこの幼生を摂取することで、幼生は鼻腔に達し、最終的な脱皮を経て成体となります。その後、雄は早々に寿命を迎えますが、雌は数週間後に産卵を始め、短期間で大量の卵を産出します。

分布

イヌシタムシは世界中に分布しており、特にヨーロッパが原産地とされています。日本でも見つかることがありますが、報告数は少ないです。オーストラリアで見られるディンゴには別種の幼生が寄生しています。

利害

イヌシタムシによる感染は広く知られているわけではありませんが、時としてカタル性の刺激を引き起こすことがあります。人間にも感染する例があり、本来は犬を飼う人々の間での発症が多いとされています。

分類

イヌシタムシの近縁種もいくつか確認されていますが、犬に特に寄生するのはこの種に限られています。古い分類に由来する異名も多く、研究が進む中で新たな知見が得られています。

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