イラク原子炉爆撃事件

イラク原子炉爆撃事件の概要

1981年6月7日、イスラエル空軍はイラクのタムーズにある建設中の原子力発電所を攻撃しました。この事件は「イラク原子炉爆撃事件」として知られ、イスラエルのオペラ作戦（別名バビロン作戦）によって実行されました。イスラエルは、イラクが核兵器を開発する危険があると判断し、自国の安全を確保するために先制攻撃を行うことを決定しました。この攻撃の結果、国際連合安全保障理事会は決議487を採択し、イスラエルを非難しました。

イラクの核開発背景

イラクのフセイン政権は、豊富な石油資源を持つ国が原子力開発を進めるのは将来的なエネルギー資源の枯渇を見越したものであると説明していました。しかし、実際にはイスラエルに対抗する目的での核武装を狙っているのではないかと疑念が持たれていました。イスラエルがかつて核兵器を保有しているとの情報がイラク政府に伝わり、それが核兵器開発を進めるきっかけとなったのです。

イラクは1960年代にソ連から原子炉を導入したものの、フセイン大統領の希望に沿う兵器級プルトニウムの生産ができないものでした。1970年代からはフランスから技術を移転してもらい、自らオシリス級の原子炉を建設する計画を進めていました。この原子炉は1982年に稼動予定で、イスラエルは強い危機感を抱くことになります。

イスラエルによる妨害工作

イスラエルは最初に外交手段を通じてフランスに対し核技術の供与を打ち切るよう要求しましたが、当時のフランス政府はこの要請を拒否しました。それに対抗する形で、イスラエルの情報機関モサドはさまざまな妨害工作を行いました。1979年にはフランスの港で原子炉の部品が爆破され、1980年にはイラクの核開発に関与する人物がフランスで襲われるなどの事件が相次ぎました。

外交的手段が効果を見せなかったため、イスラエルは最終手段として武力による攻撃に踏み切ることになります。当初はF-4E戦闘機を使用する予定でしたが、最新鋭のF-16戦闘機を購入したことで作戦実行が可能になりました。

オペラ作戦の実行

1981年6月7日、イスラエル空軍は、専用のF-16戦闘機を用いて攻撃を行いました。具体的には、2000ポンドのMk-84爆弾を搭載した8機のF-16が、護衛のF-15を伴ってタムーズを目指しました。攻撃機はヨルダンおよびサウジアラビアの領空を侵犯し、設定されたルートを使い原子炉へと到達しました。爆弾は全て自由落下型で、16発のうち14発が原子炉に命中し、致命的な損傷を与えました。

この攻撃によりイラク側では、10名の兵士と1名のフランス人技術者が死亡しました。逆にイスラエルのパイロットたちは無事に帰投し、イラクは攻撃の出所を特定できずに混乱しました。翌日にイスラエルは自国民の安全を守るための先制攻撃であったと述べ、正当化を試みました。

事件の影響とその後

イスラエルのこの攻撃は、国際的に非難を受けましたが、同国自身も1960年代から核開発を進めていたことが後に発覚します。この事件は、世界各国における中東の核問題に新たな影響を与え、後の国際政治における議論を引き起こしました。さらに、この事件を題材にしたフィクション作品も多数登場しています。

また、爆撃作戦はイスラエルの政治情勢にも影響を与え、政権党は選挙での支持を得る結果となりました。イラク側はこの爆撃に対抗するため、記念切手を発行するなどしていますが、オシラク原子炉の廃墟はその後湾岸戦争で完全に破壊されました。

このように、イラク原子炉爆撃事件は中東の歴史において重要な出来事として語り継がれています。

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