イラロタの死

クラーク・アシュトン・スミスが手掛けた短編ホラー作品である『イラロタの死』は、1937年9月にアメリカのパルプ雑誌『ウィアード・テールズ』で発表されました。彼の代表的な架空世界ゾティーク大陸を舞台とした一編であり、衰退した魔法文明が息づくタスーン国の首都、ミラーブを主な舞台として物語が展開します。物語の冒頭には、ゾティーク世界の神々の一柱であるタサイドンへの連祷が引用されており、作品全体の不吉な雰囲気を醸し出しています。

タスーン国のクサントリカ女王は、夫であるアルカイン王を毒殺したという噂の後、極めて奔放な生活を送り、多くの愛人を次々と召し抱えていました。しかし、彼女の激しい気性を満足させられなかった者たちは、ことごとく非業の死を遂げるという恐ろしい側面も持ち合わせていました。

この宮廷では、貴族であるトゥロス卿もまた多くの女性と浮名を流していましたが、その中でも特に女王の侍女を務めるイラロタを深く愛していました。ところが、クサントリカ女王がトゥロスを自らの愛人として奪ったことから、イラロタは深い悲しみと絶望に沈むことになります。一方、トゥロスもまた女王の法外な要求に辟易しており、かつて愛したイラロタを捨てたことに半ば後悔を感じていました。そんな折、自身の遠い領地に緊急の用事ができたことを知ったトゥロスは、一時的に宮廷を離れる機会を得たことを内心では喜んでいました。

トゥロスが不在の間、イラロタが謎めいた死を遂げます。彼女が愛を取り戻そうと、あらゆる種類の禁忌の呪術に手を染めたものの、その努力は実を結ばず、深い無念と絶望に取り憑かれた末の死であったと噂されました。

イラロタの葬儀は、タスーン国の古来からの慣習に従い、故人の冥福と名誉を称える一種の「乱痴気騒ぎ」とでもいうべき盛大な宴が三日間にわたって催されました。その葬儀も終わりに近づいた三日目の夜、トゥロスが宮殿に戻ります。イラロタの死を知らされていなかった彼は、棺に横たわる彼女の姿を見て大きな衝撃を受けます。クサントリカ女王は、トゥロスがイラロタの腕に口づけする姿を目撃し、激しい嫉妬心を燃やして彼に深夜、宮殿の南にある四阿に来るようにと命じます。しかし、その場でトゥロスは幻覚か幻聴か、イラロタの声が「真夜中に霊廟で待っています」と語りかけるのを聞くのです。そこにちょうど、墓掘りが現れ、イラロタの棺を墓所へと運び出そうとしていました。

トゥロスは、イラロタが自らへの愛を再び燃え上がらせるために死を偽装しているのではないかと推測し、彼女が眠る墓所へと向かいます。彼が納骨所で棺に横たわるイラロタの姿を見つけたとき、彼女はかすかに唇を開け、何か言葉をつぶやきました。

一方、トゥロスが墓の方角へと歩いていく様子を見た女王は、驚きと同時に激しい怒りを覚えます。また女王は、この国に伝わる古い言い伝え、すなわち強い未練を残して息絶えた魔女は、ラミアや吸血鬼のような存在に変異し、それによって生前不完全だった呪術を完成させることができるという不吉な伝承を思い出し、トゥロスだけでなく自分自身にも危険が及ぶことを察知します。彼女は毒を塗った刃とランタンを手に取り、トゥロスの後を追うことを決意します。

トゥロスは暗闇の中で、もはやかつての愛しい女性ではない何らかの異形の存在に触れていました。彼は恍惚としたまま、その場で絶命します。女王は恐慌状態に陥りながらも、手にしていた毒刃を振り上げ、その怪物を倒そうと試みます。しかし、ランタンの光で照らされたそのおぞましい姿を目にするや、彼女は甲高い悲鳴と狂気の笑いをあげながら、納骨所から逃げ去るしかありませんでした。そこに存在したのは、おそらくはゾティークの神々、特に第七地獄の力によって蘇らされ、おぞましい生気を与えられた存在であり、かつてのイラロタの面影は微塵も残されていなかったのです。

この物語は、愛と嫉妬、そして禁断の呪術が引き起こす破滅的な結末を描いており、スミス作品特有の退廃的な美学とゴシックホラーの要素が色濃く表れています。

本作は、大瀧啓裕訳の『ゾティーク幻妖怪異譚』（創元推理文庫）に収録されています。

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