クラーク・アシュトン・スミス

クラーク・アシュトン・スミス：幻想文学の巨匠

クラーク・アシュトン・スミス (1893年1月13日 - 1961年8月14日) は、アメリカ合衆国カリフォルニア州出身の作家にして芸術家です。詩人、小説家として活躍した彼は、精緻で独創的な幻想文学で知られています。その作品世界は、独自に創造された架空の大陸、超未来的なゾティークや古代のハイパーボリアを舞台に展開し、多くの読者を魅了しました。絵画や彫刻にも才能を発揮しており、多様な芸術表現を通して独自の美意識を追求した人物と言えるでしょう。

幼少期と創作への道

カリフォルニア州の農家の家庭で生まれたスミスは、幼少期から体が弱く、読書に多くの時間を費やしました。11歳頃から童話、小説、そして詩作と、創作活動に没頭。アンデルセンや『千夜一夜物語』、キップリングといった作家から影響を受け、やがてエドガー・アラン・ポーやオマール・ハイヤームの『ルバイヤート』に触れ、詩作に傾倒していきます。

特にカリフォルニアの詩人、ジョージ・スターリングからの影響は大きく、彼の指導の下、スミスの詩作は大きく進歩しました。さらに、独学でラテン語を習得するなど、文体の研鑽にも励み、ウェブスター辞書やブリタニカ百科事典を熟読するなど、徹底的な言語研究を積み重ねていたことが知られています。ウィリアム・トマス・ベックフォードの『ヴァセック』からも強い影響を受けており、この作品は彼の耽美的な作風形成に深く関わっていると考えられます。

1910年には地元紙に詩が掲載され、商業的な成功を収めます。その後も複数の雑誌に短編小説を発表し、作家としての道を歩み始めます。1912年には初の詩集『星を踏み歩くもの』を出版。その後も詩集を発表し続け、詩作活動は彼の創作活動の重要な柱であり続けました。

ラヴクラフトとの出会い

1922年には、後に重要な友人となるH・P・ラヴクラフトから手紙が届き、二人の文通が始まります。ラヴクラフトはスミスの詩に深い感銘を受け、親交を深めていく中で、スミスは幻想小説の執筆を始めることになります。ラヴクラフトの「潜み住む恐怖」の挿絵を担当するなど、共同作業も行っています。

パルプ・マガジンの黄金時代

1920年代後半から1930年代にかけて、スミスは『ウィアード・テイルズ』などのパルプ・マガジンに精力的に作品を発表。約80編もの幻想小説を執筆し、ラヴクラフト、ロバート・E・ハワードと共にパルプ・マガジン黄金期を築いた作家の一人として数えられるようになりました。ゾティークやハイパーボリアを舞台にした連作短編は、その独特の世界観と詩的な文体で高い人気を博しました。

後期と遺産

1930年代後半以降は、小説執筆の活動は減少。一方で、1934年頃から始めた彫刻に熱中するようになり、約200点の作品を制作しました。彫刻作品の中には、ゾティークやハイパーボリアの世界観を反映したものも存在します。しかしながら、絵画や彫刻作品は商業的には成功しませんでした。

1942年には、アーカムハウスより最初の短編集『時空の外に』が出版され、その後も数々の作品が同社から刊行されます。1954年に結婚し、庭師として働きながら創作活動を続け、晩年は詩や小説の執筆から離れ、絵画や彫刻に専念しました。1961年に死去。彼の遺稿はブラウン大学のジョン・ヘイ図書館に寄贈され、現在も研究者の間で高い関心を集めています。

作品と影響

スミスの作品は、ゾティーク、ハイパーボリア、アトランティス（ポセイドニス）、アヴェロワーニュなど、多様な架空世界を舞台に展開します。彼の作品には、ギリシャ神話や中世フランスの要素が取り入れられており、独自の解釈と創造力で構築された世界観は、多くの読者・研究者を魅了し続けています。ラヴクラフトやハワードとの交流は、彼の創作活動に多大な影響を与え、いくつかの作品はクトゥルフ神話との関連性も指摘されています。

特に、ベックフォードの影響が強く見られる性愛を基調とする耽美的な作風は、スミス独特の視覚的な描写と相まって、多くの読者に強烈な印象を与えています。近年でも作品が再評価され、新たな翻訳や研究も盛んに行われています。彼の残した文学的遺産は、現代の幻想文学にも大きな影響を与え続けています。

もう一度検索