イラン百科事典

「イラン百科事典」（Encyclopædia Iranica）は、コロンビア大学イラン学センターが1973年から取り組んでいる壮大なプロジェクトです。この百科事典は、イランの人々の歴史、文化、そして文明を、先史時代から現代に至るまで包括的に網羅することを目的としています。特に、イラン学の分野における標準的な学術百科事典としての役割を担い、その信頼性の高さから広く参照されています。

編纂作業は、全米人文科学基金をはじめとする様々な慈善団体や個人の支援によって支えられています。2007年時点では、全米人文科学基金の支援がプロジェクト予算の約3分の1を占めていました。この支援体制は、百科事典の質の維持と継続的な発展に不可欠な要素となっています。

「イラン百科事典」の対象範囲は、イラン（ペルシア）の領域にとどまりません。歴史的にイラン語が優勢であった周辺地域、具体的にはアフガニスタン、タジキスタン、アナトリア、クルディスタン、さらにはコーカサス、南アジア、中央アジア、メソポタミアの一部も含まれています。また、イラン世界と他の地域、例えば中国やヨーロッパなどとの関係についても詳しく記述されています。この広範な地理的・文化的対象範囲は、イラン世界の複雑さと多様性を理解する上で非常に重要な視点を提供します。

現在までに第12巻が出版されており、最終的には30巻以上となる予定です。編集長はエフサーン・ヤールシャーテル氏、編纂主幹はアフマド・アシュラーフ氏が務めています。編纂委員会には、ニコラス・シムズ＝ウィリアムズ氏、クリストファー・ブルンナー氏、モフセン・アシュティヤーニー氏、マヌーチェフル・カーシェフ氏など、著名なイラン学者が名を連ねています。さらに、主要なイラン学関連研究機関から40人以上の編集協力者が参加しており、記事の執筆者は2006年時点で1200人を超えています。執筆者の所属機関は、アメリカ合衆国、ヨーロッパ、アジアにまたがり、国際的な協力体制が構築されています。

「イラン百科事典」の編纂は、全米人文科学基金、米国学術団体協議会、国際学士院連合、イラン・ヘリテージ財団など、多数の団体や個人によって支えられています。この多岐にわたる支援体制は、百科事典の学術的な質と信頼性を担保する上で重要な役割を果たしています。

各項目の全文はオンラインで無料で閲覧できます。以前は無料フォントのダウンロードが必要でしたが、現在はUnicodeが採用されているため、特別なフォントは必要ありません。これにより、世界中の人々が容易に情報にアクセスできるようになりました。

2007年3月25日には、AP通信が「イラン百科事典」に関するニュース記事を配信しました。この報道は、印刷メディアとオンラインメディアの両方で広く取り上げられ、百科事典の認知度向上に大きく貢献しました。特にCNNインターナショナルは、修正を加えた上でウェブサイトに掲載しました。しかし、この報道には正確性に問題があるとの指摘もあり、イラン百科事典側は公式なコメントを発表しています。

イラン百科事典は、イランの歴史、文化、文明に関する包括的かつ信頼性の高い情報源として、今後もその重要性を増していくことでしょう。

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