イラン航空655便撃墜事件

イラン航空655便撃墜事件

イラン航空655便撃墜事件は、1988年7月3日にホルムズ海峡で発生した、非常に悲惨な事件である。この事故では、アメリカ海軍の艦船が誤って民間の旅客機を撃墜し、搭乗者290人全員が命を失った。

背景

当時、イラン・イラク戦争が続いており、ホルムズ海峡では民間船舶も攻撃されるなど、非常に緊張した状況が続いていた。アメリカ海軍は、この海域で軍事演習を行っていた。しかし、イランも自国の海域を防衛しようと監視活動を行い、イラン空軍のF-14が頻繁に出撃していた。こうした背景の中で、過去にも軍艦と航空機の誤射による悲劇が起きており、アメリカ軍とイラン軍の間にはさらなる緊張が高まっていた。

事件の発生

7月3日の朝、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦「ヴィンセンス」は中東機動部隊の指揮艦として行動していた。この日は、イラン側の戦闘艇に対する警備のため、艦船は活発に動いていた。ヴィンセンスは、敵対行動をとるイランの戦闘艇との接触が多発していたため、状況は緊迫感を増していた。

その日の朝6時33分には、艦長がイランの戦闘艇に対する支援を必要とする報告を受けていた。数時間後の9時47分、イラン航空の655便がバンダレ・アッバースからドバイへのフライトを開始した。空港が軍民共用であったため、アメリカ軍はイラン空軍のF-14がこの空港にいることを認識していた。

この誤認識が事件の引き金となった。ヴィンセンスは、655便が民間の旅客機であるという確認ができないまま、防衛システムで攻撃態勢を整えてしまった。955便の航空機は通常の信号を出していたが、同時にヴィンセンスのレーダーがイランのF-14の信号も受信していたため、混乱が生じた。

撃墜の瞬間

事件が発生したのは、9時54分のことだった。ヴィンセンスの艦首砲が、誤ってSM-2ミサイルを655便に発射した。発射されたミサイルは旅客機に命中し、655便は瞬時に撃墜された。この時、乗員乗客は全員、運命を共にした。撃墜後、ヴィンセンスの乗員たちは、目標が民間の旅客機であったことに気づいたが、すでに手遅れであった。

事件後の影響

事件の調査と報告は、国際的に大きな波紋を呼んだ。イラン政府は、国際司法裁判所に対して、撃墜に関する訴えを起こし、アメリカ側に対する激しい非難を強めた。やがて、アメリカは撃墜によって犠牲となったイラン人の遺族に対して、合計6180万ドルの補償を支払うことに同意したが、航空機そのものの補償は行われなかった。

また、国際連合でもこの事件に対処するため、特別な決議が採択され、事件の調査と再発防止を求める声が上がった。事件はイランとアメリカの関係に深刻な影響を与え、両国の緊張がさらに高まる原因となった。

結論

イラン航空655便の撃墜事件は、冷戦の影響を受けた軍事的緊張がどのように悲劇的な結果をもたらすかを示す一例である。この事件は、戦争の悲劇から得られる教訓として、今もなお語り継がれている。

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