ホルムズ海峡

ホルムズ海峡：世界のエネルギー輸送の要衝

ホルムズ海峡は、ペルシア湾とオマーン湾を繋ぐ、中東における最も重要な海峡の一つです。その地理的な位置は、世界のエネルギー市場において、非常に重要な役割を担っています。

地理と特徴

ホルムズ海峡は、北にイラン、南にはオマーンの飛び地であるムサンダム半島に挟まれています。水深は75mから100m程度で、最も狭い部分では幅が約33kmです。海峡内には、イラン領のゲシュム島やホルムズ島など、複数の島が存在します。この海峡は、ペルシア湾で産出される原油を世界に輸送するための重要なルートであり、その戦略的な価値は非常に高いと言えます。

歴史的背景

かつてこの地域にはホルムズ王国が存在し、15世紀には明の鄭和が「忽魯謨斯」として寄港したとされています。古くから交易の要所として栄え、その歴史は深く、様々な文化と人々が行き交いました。

エネルギー輸送における重要性

ホルムズ海峡は、ペルシア湾岸諸国で産出される石油の主要な搬出路であり、毎日約1700万バレルの石油がタンカーで輸送されています。これは、世界の石油輸送量のかなりの割合を占め、特に日本にとっては、輸入する原油の約8割がこの海峡を通過します。年間では約3400隻のタンカーがこの海峡を利用しており、その重要性は計り知れません。

安全保障上の懸念

この海峡は、その重要性ゆえに、常に安全保障上の懸念がつきまといます。イラン・イラク戦争時には、タンカー戦争が勃発し、原油輸送に大きな影響が出ました。また、近年ではイランの核開発問題を巡り、イランと欧米諸国、湾岸アラブ諸国との間で緊張が高まっており、アメリカ海軍が展開するなど、情勢は不安定です。イランもこれに対抗し、定期的に軍事演習を行っており、予断を許さない状況が続いています。2022年12月には、米軍とイラン革命防衛隊の船舶が接近する事態も発生しました。

環境

海峡の最深部は南側のムサンダム半島付近にあり、北へ向かって浅くなります。また、海峡の北東岸には短い川が多く、その河口部には三角州や浅瀬が発達し、マングローブ、塩性湿地、干潟が多く見られます。これらの地域は、サギ類やニシハイイロペリカンなどの水鳥の越冬地やアオウミガメの生息地として、ラムサール条約に登録されています。この地域は、環境保護の観点からも非常に重要な場所です。

ホルムズ海峡経由の原油輸送シェア

ホルムズ海峡を経由する原油輸送は、主にアジア諸国が中心です。特に、人口大国や大規模な油田を持たない国々は、この海峡を通じて原油を輸入しています。これらの国々にとって、ホルムズ海峡はエネルギー供給を確保するための生命線と言えるでしょう。

海峡迂回パイプライン

ホルムズ海峡の重要性が高い一方で、地政学的なリスクも存在します。そのため、海峡の封鎖リスクに備え、代替輸送手段としてパイプラインが建設されています。代表的なものとして、UAEのアブダビ原油パイプラインや、サウジアラビアの東西パイプライン（ペトロライン）があります。これらのパイプラインは、ホルムズ海峡を経由せずに原油を輸送することができ、エネルギー供給の安定化に貢献しています。

アブダビ原油パイプライン

アブダビ原油パイプラインは、UAEのアブダビ南方のハブシャン油田からインド洋側のフジャイラ港までを結ぶ約370kmのパイプラインです。このパイプラインの輸送能力は、UAEの原油生産量の約7割に相当し、ホルムズ海峡を迂回する形で原油を輸出することができます。

東西パイプライン（ペトロライン）

東西パイプラインは、サウジアラビアのアブカイクから紅海沿岸のヤンブーを結ぶ約1,200kmのパイプラインで、公称輸送能力は日量480万バレルです。このパイプラインも、ホルムズ海峡を迂回するための重要な輸送手段となっています。

事故と事件

ホルムズ海峡は、多くの船舶が航行するため、事故や事件が発生するリスクも存在します。2010年には、商船三井のタンカーが原因不明の衝撃を受け、損傷する事件が発生しました。また、2012年には、日本のタンカーとアメリカ海軍のイージス駆逐艦が衝突する事故も発生しました。2019年には、ホルムズ海峡で日本のタンカーが攻撃を受ける事件が発生し、その安全性が改めて問題視されました。

まとめ

ホルムズ海峡は、世界のエネルギー輸送において非常に重要な役割を担う海峡です。しかし、その地政学的な位置から、常に緊張とリスクが伴います。海峡の安全確保は、世界のエネルギー安定供給にとって不可欠であり、今後もその動向が注目されます。

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