イリフ＝ペトロフ

イリヤ・イリフ（1897年 - 1937年）とエフゲニー・ペトロフ（1902年 - 1942年）は、20世紀前半のソ連を代表する作家コンビです。共にオデッサ出身で、1920年代から1930年代にかけて数々の作品を共同で制作し、その多くは「イリフ＝ペトロフ」の名で知られています。

彼らの最も有名な作品は、風刺小説『十二の椅子』（1928年）とその続編である『黄金の子牛』（1931年）です。これらの作品は、主人公であるオスタップ・ベンデルが、時代背景であるネップ期のソ連で、様々な人々を巻き込みながら富を求めて奔走する姿をコミカルに描いています。

『十二の椅子』では、亡命貴族が隠した宝石を求めて、ベンデルが12個の椅子を追跡する物語が展開されます。続く『黄金の子牛』では、ベンデルが違法なビジネスで財産を築こうとします。これらの作品は、社会主義体制下の矛盾や、官僚主義、拝金主義といった社会問題を鋭く風刺しており、ソ連の検閲をすり抜けながらも、当時の社会に大きな影響を与えました。また、ベンデルという魅力的なキャラクターは、多くの人々の心をつかみ、今日においてもロシア文化の中で広く読まれ、引用されています。

イリフとペトロフは、これらの小説以外にも、数多くの演劇や映画脚本、ユーモア短編、風刺記事などを執筆しました。彼らは、雑誌「チュダク」、「30デイズ」、「クロコジル」、「アガニョーク」や、新聞「プラウダ」、「リテラトゥールナヤ・ガゼータ」などの媒体で、社会風刺やユーモラスな作品を発表し、当時のソ連社会を活写しました。初期にはトルストエフスキーやドン・ブシリオといった偽名を用いて作品を発表したこともあります。

1930年代には、世界恐慌時代のアメリカを旅行し、その経験を基にしたフォトエッセイ「アメリカの写真」を雑誌「アガニョーク」に掲載しました。さらに、旅行記『一階建てのアメリカ』を出版し、アメリカの文化やライフスタイルを独自の視点で描きました。彼らの作品には、ソ連の社会主義体制とは異なるアメリカの姿を肯定的に捉えようとする姿勢がみられます。特に、イリフが撮影したアメリカの写真は、当時のアメリカ社会の様子を鮮明に捉えた貴重な資料となっています。なお、この旅行記のタイトルは、アメリカの多くの住宅が低層であることに由来します。

ウラジミール・ナボコフは、イリフとペトロフを「素晴らしい才能のある作家」と評しました。彼らの作品は、ユーモアと風刺に満ち溢れており、社会に対する鋭い洞察と、人間に対する温かい眼差しが込められています。彼らの作品は、時代を超えて読み継がれ、多くの人々に愛され続けています。

主な作品

小説
『十二の椅子』（1928年）
『黄金の子牛』（1931年）
『一階建てのアメリカ』
演劇・脚本
『女たらし』（1930年）
『兵舎』（1931年）
『強い感情』（1933年）
『サーカスのドームの下で』（1934年）

その他

1982年に発見された小惑星3668 Ilfpetrovは、彼らの名前にちなんで命名されました。

イリフとペトロフの作品は、そのユーモアと風刺性、そして社会への鋭い洞察により、今なお多くの読者を魅了し続けています。彼らの作品は、ソ連社会の変遷を捉えた歴史的資料としての価値も高く、文学史においても重要な位置を占めています。

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