イリヤ・イーティン

イリヤ・イーティン（Ilya Itin）は、1967年4月3日にロシアに生まれた、国際的に活躍するピアニストです。現在はアメリカ合衆国ニューヨーク市を活動拠点としています。

彼の音楽教育は4歳から始まり、幼少期はスヴェルドロフスク音楽院付属の才能教育学校でナタリア・リトヴィノワに師事しました。その後、権威あるモスクワ音楽院に進学し、高名なレフ・ナウモフ教授のもとで研鑽を積み、1990年には最高位の栄誉をもって同音楽院を卒業しました。

イーティンのキャリアは、数々の国際的なピアノコンクールでの輝かしい実績によって大きく開花しました。特に、1996年のリーズ国際ピアノコンクールでは、栄誉ある金メダル（第1位）を獲得し、同時に現代音楽賞とBBC聴衆賞も受賞するという快挙を成し遂げました。これ以前にも、ロシア国内のモスクワ音楽院が主催するラフマニノフコンクールで最優秀賞に輝いています。国際コンクールでは、ウィリアム・カペル国際ピアノコンクールで第2位を獲得。1991年には、カサドシュコンクール（現在のクリーブランド国際ピアノコンクール）で第1位とショパン特別賞を受賞し、その実力が広く認められました。さらに、ジーナ・バッカウアー国際ピアノコンクールでは第3位に入賞したほか、「プロコフィエフ最優秀演奏賞」や「モーツァルト最優秀演奏賞」を含む複数の特別賞を受賞しています。1992年のアルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクールでも堂々たる第3位に輝くなど、主要な国際コンクールにおいて常に上位入賞を果たし、その卓越した技術と解釈能力を世界に示しました。

コンクールでの成功を契機に、イーティンはソリストとしてヨーロッパ、アジア、南米、アメリカなど世界中を巡る精力的な演奏活動を展開しています。これまでに共演したオーケストラは多岐にわたり、クリーヴランド管弦楽団、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー管弦楽団、東京交響楽団、ロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団、イスラエル・カメラータ・エルサレム、中国国立交響楽団、アンカラのビルケント交響楽団、インド交響楽団、メキシコ市フィルハーモニー管弦楽団、そしてロンドン・フィルハーモニー管弦楽団といった世界の一流団体が含まれます。また、サイモン・ラトル、ネーメ・ヤルヴィ、クリストフ・フォン・ドホナーニ、ヤコフ・クライツベルク、ワシリー・シナイスキー、ワレリー・ポリャンスキー、ミハイル・プレトニョフといった著名な指揮者たちとも共演を重ねています。彼は、マイアミ国際ピアノフェスティバルや、プリンストン大学で開催されるゴランスキー研究所の国際ピアノフェスティバルにも定期的に出演しており、特にアメリカやアジアでのリサイタルは高い評価を受けています。2010年夏には、アジアの5都市でラフマニノフの全24曲の前奏曲を演奏するツアーを敢行し、全公演が満席となる大成功を収めました。同年秋には、ロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団の2010-2011シーズン開幕公演でリストのピアノ協奏曲第1番を演奏しています。

イーティンの録音も数多く、その多くが高い評価を得ています。イスラエル・カメラータとの共演によるベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番や、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ・フェスティバル室内管弦楽団とのハイドンのピアノ協奏曲ニ長調は特に注目されています。Video Artists International（VAI）からは、ラフマニノフの全24曲の前奏曲のライブ録音に加え、プロコフィエフのピアノソナタ第6番、第7番、第8番、そしてムソルグスキーの組曲『展覧会の絵』がリリースされています。室内楽の録音としては、イゴール・グルップマンとのベートーヴェン「春」ソナタ、ヴェスナ・グルップマンとのブラームスのヴィオラソナタ ヘ短調、そしてマイアミ国際ピアノフェスティバルでの伝説的なヴァイオリニスト、アイダ・ヘンデルとの共演リサイタルの記録が存在します。特に2010年3月には、マイアミ国際ピアノフェスティバルの「マスターピアニストシリーズ」でのライブ録音がVAIより「ロシア・ピアノ音楽マラソン」と題してリリースされており、ラフマニノフの前奏曲全曲とプロコフィエフのソナタ第7番、第8番が収録されています。

演奏活動と並行して、イーティンは教育者としても活動しています。ジュリアード音楽院やピーボディ音楽院では客員講師として教え、日本の武蔵野音楽大学では客員芸術家および客員教授を務めた経験があります。また、ニューヨーク市立大学（CUNY）の大学院課程でも指導にあたり、毎年夏にはプリンストン大学で開催されるゴランスキー研究所で指導を行っています。後進の育成にも情熱を注ぎ、次世代の音楽家たちに自身の経験と技術を伝えています。

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