イルビド

イルビド：歴史と現代が交錯するヨルダンの都市

イルビド（إربد, Irbid）は、ヨルダン北西部に位置する都市で、イルビド県の県都です。首都アンマンから北へ約70km、ヨルダン川東岸のギレアド台地の北端に位置し、シリアとの国境にも近い場所にあります。この都市は、かつてアラベラ（Arabella）と呼ばれていました。

1992年の国勢調査では人口が208,329人でしたが、2007年の推計では327,543人と大幅に増加し、アンマン、ザルカに次ぐヨルダン第3の都市へと発展しました。また、イルビド県はヨルダンで2番目に人口が多い県であり、多くのパレスチナ難民も居住しています。

古代遺跡への玄関口

イルビドは、ペラ、ベイト・ラス、ウム・カイス（古代ガダラ）といった古代デカポリスの都市群に近接しており、これらの遺跡を巡る観光客の拠点となっています。また、周辺の農村部から集まる農産物の集散地としても機能しており、南のアンマン、東のマフラク、北のシリア（ダマスカス）方面への交通の要所でもあります。

教育の中心地

イルビドには、ヨルダン科学技術大学とヤルムーク大学という二つの重要な大学が存在し、学術都市としての側面も持ち合わせています。

歴史

イルビドの歴史は、青銅器時代にまで遡ります。この地域からは、その歴史を物語る遺物や墳墓が発見されています。イスラム教の進出以前にはアラベラと呼ばれ、古代シリア地方有数のワイン産地として知られていました。肥沃な土壌と穏やかな気候が、高品質なブドウ栽培を可能にしていました。ヘレニズム時代には、アラベラは重要な交易都市として繁栄し、古代イスラエルの宗教指導者であるアルベラのニッタイもこの街の出身です。

イルビドから北へ約30kmの場所には、ヤルムーク川が流れており、その流域は東ローマ帝国と正統カリフ軍が激突したヤルムークの戦いの古戦場です。この戦いでのイスラム帝国の勝利後、東ローマ帝国はシリア地方から撤退し、イスラム帝国がこの地を支配するようになりました。イスラム時代に入ると、この都市はアラビア語でイルビドと呼ばれるようになり、ワイン生産からオリーブオイルやコムギの生産へと主要産業が変化しました。

現代のイルビド

現在のイルビドは、中東的な喧騒と若者が集う学園都市という二つの顔を持っています。ペラ、ウム・カイス、ベイト・ラス、アジュルンといったヨルダン渓谷北部の古代遺跡への観光拠点であり、多くの外国人観光客が訪れます。イルビド自体は観光地とは言えませんが、ヤルムーク大学内にはヨルダン文化遺産博物館とヨルダン自然史博物館という二つの博物館があり、文化的な側面も持ち合わせています。ヤルムーク大学の西端に位置する大学通りは、レストランやカフェ、インターネットカフェが密集し、学生たちで賑わっています。また、イルビドはフセイン・フットボールクラブの本拠地であり、1999年にはパン・アラブ・ゲームズの開催地にもなりました。

イルビドは、古代からの豊かな歴史と現代的な活気が共存する魅力的な都市です。

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