イワン・バカノフ

イワン・バカノフは、1975年5月2日生まれのウクライナの政治家です。2019年から2022年まで、ウクライナの主要な情報・治安機関であるウクライナ保安庁（SBU）の長官を務めました。彼はウォロディミル・ゼレンスキー大統領の幼馴染であり、長年にわたって親密な関係を築いてきました。

生い立ちと経歴

バカノフは、ウクライナ中部の都市クルィヴィーイ・リーフで生まれました。幼少期からゼレンスキーと親交があり、共に学び、その後も様々なプロジェクトで協力関係を続けました。特に、コメディ制作会社「クヴァルタル95スタジオ」では、長年にわたり重要な役割を担いました。

1997年にキエフ国立経済大学を卒業、2006年には労働・社会関係・観光アカデミーを卒業しています。2013年1月からクヴァルタル95一座の代表を務め、同年12月からはクヴァルタル95スタジオの責任者に就任しました。ビジネスの世界で実績を積む一方で、ゼレンスキーの政治活動を支える重要な役割も担いました。

2019年の大統領選挙では、ゼレンスキーの選挙チームの一員として活動し、勝利に貢献しました。また、2017年から2019年まで、ゼレンスキーが率いる政党「国民の僕」の党首を務めていました。

2021年10月に公開された「パンドラ文書」によって、バカノフとゼレンスキーの首席補佐官セルヒー・シェフィールが、ゼレンスキー大統領就任前に、イギリス領バージン諸島、キプロス、ベリーズなどのオフショア企業ネットワークを運営していたことが明らかになりました。このネットワークには、ロンドンの高額不動産を所有する企業も含まれており、その資金源や目的について議論を呼びました。

ウクライナ保安庁（SBU）長官

2019年5月22日、ゼレンスキー大統領はバカノフをウクライナ保安庁（SBU）の第一副長官に任命しました。その直後、5月28日にはウクライナ国家安全保障・国防会議のメンバーに任命され、5月29日には、当時の保安庁長官の休暇に伴い、バカノフが6月3日から長官代理を務めることが発表されました。この短期間での昇進は、バカノフに対するゼレンスキー大統領の信頼の厚さを示唆するものでした。

バカノフが機密情報にアクセスできるよう、2019年5月末に「中尉」の軍階級が与えられました。しかし、バカノフはこれ以上の昇進を望まないと述べています。また、同年7月16日からは腐敗防止政策国家評議会のメンバーにも選出されました。

2019年8月29日、議会はバカノフを正式にウクライナ保安庁長官に任命しました。就任演説でバカノフは、SBUの改革には少なくとも3年かかるとしつつ、最初の効率的なステップは1年で実現できるとの見通しを示しました。

SBU長官として、バカノフはいくつかの注目すべき作戦を指揮しました。その中でも特に重要なのが、過激派組織「イスラム国（IS）」の指導者の一人であるアル・バラ・シシャニを逮捕したことです。バカノフはSBUの効率性を高める必要性を強調し、脅威の無力化を初期段階で行うべきだと主張しました。彼の指導の下で起草された新しいSBU法は、組織に広範な権限を与えるものとして、人権団体からは批判的な意見も出ています。

解任とその後

2022年7月17日、バカノフはゼレンスキー大統領によってSBU長官を解任されました。解任の理由は、ウクライナ軍規律法第47条に基づくものでした。当初、大統領府はバカノフが実際には「停職」であり、SBUの業務に関する調査が終わるまで解任ではないと発表しましたが、7月19日にウクライナ議会での投票を経て、正式に解任されました。この解任は、ロシアによるウクライナ侵攻のさなかに行われたこともあり、SBU内部の混乱や情報漏洩に対する責任を問われたものと見られています。

家族

バカノフはオクサナ・ラザレンコと結婚しており、オクサナは元ロシア国籍ですが、1998年からウクライナに居住し、永住許可を得ています。2019年6月には、バカノフはオクサナがウクライナの市民権を取得する予定であると述べており、同年にはウクライナ国民となっています。夫妻には息子のアルトゥールがおり、2019年時点でキエフ国立経済大学の学生でした。

バカノフは、ゼレンスキー大統領の信頼の厚い側近として、政界と情報機関の両方で重要な役割を担ってきました。しかし、SBU長官としての解任は、彼のキャリアにとって大きな転換点となりました。彼の今後の活動や、ウクライナの政治情勢における役割は、今後も注目されるでしょう。

もう一度検索