インスペクション ここで生きる

2022年に制作されたアメリカ合衆国の伝記ドラマ映画『インスペクション ここで生きる』（原題：The Inspection）は、監督エレガンス・ブラットンの長編映画監督デビュー作であり、彼自身の海兵隊での実体験を基に紡ぎ出された物語です。本作はR15+指定となっています。

物語の主人公は、エリス・フレンチ。母子家庭で育った一人息子ですが、ゲイであることを理由に母親から見捨てられ、16歳から10年間もの間、ホームレスとして日々の生活を送ってきました。2005年、フレンチは自身の存在意義を見出そうと決意し、海兵隊への入隊を志願します。入隊を前に、ささやかな花束を持って母親に会いに行きますが、母は彼の言葉に耳を傾けようとしませんでした。

フレンチを含む新兵たちは、3ヶ月間に及ぶ過酷な訓練が待ち受ける訓練所に入隊します。鬼教官からの激しいしごきに耐え忍ぶ日々を送る中、やがてフレンチがゲイであることが他の新兵や教官たちに知れ渡ってしまいます。それを境に、彼は激しい差別やいじめの標的となります。

訓練中、深いプールでの水中訓練では、フレンチは水中で失神するまで頭を押さえつけられ、文字通り死の淵を彷徨います。間一髪で発見され、意識を取り戻したフレンチは激しく憤慨し、現場の最高責任者である上級教官・ロウズ一等軍曹も含め、この一件を上層部に報告すると息巻きます。しかし、ロウズ軍曹は、誰に報告しても自由だが、その結果訓練を続けられなくなり傷つくのはフレンチ自身だと忠告します。また、優しい教官として知られるロサレスからも、自らが目指す海兵隊員への道を諦めてはならないと諭され、フレンチは告発を思い留まります。そして、彼は耐え難い苦痛を伴う過酷な訓練に再び身を投じていきます。

訓練所では、フレンチ以外にも差別を受ける者がいました。アラブ系であることから偏見を持たれ、キリスト教の礼拝所しかない環境で参列を強いられていた新兵のイスマイルです。トイレに閉じこもって泣いていた気弱なイスマイルのために、フレンチは彼の宗教が異なることを申し出て、共に宿舎へ戻る許可を得ました。二人の間には友情が芽生え、 later, フレンチが射撃テストで標的の銃痕を不正に操作された際には、イスマイルが彼の潔白を訴え、窮地を救います。

訓練中は携帯電話を含む私物の所持が許されず、フレンチは母親へ手紙を書き続けていましたが、一向に返事はありませんでした。母の身を案じたフレンチは、ある夜、上級教官のロウズ軍曹に携帯電話を貸してほしいと懇願します。自分が罰せられる可能性があることを承知の上で、ロウズ軍曹はフレンチに携帯電話を貸し与えました。母親は電話に出てくれましたが、手紙に返事を書く気がなかっただけだと知ったフレンチは涙ぐみます。ロウズ軍曹はその様子をただ静かに見守っていました。

訓練所の最終課題は、実戦を想定した過酷な行軍でした。負傷した仲間を背負ったり、泥水の中や障害物を越えながら進むなど、新兵たちは極限まで追い詰められます。最後の格闘訓練では、フレンチはいじめの主犯格である新兵を、他の訓練生たちの前で打ち負かし、一矢報います。

訓練所の卒業を目前に控え、シャワー小屋でフレンチは優しいロサレス教官に自身の思いをぶつけます。ロサレス教官は、白も黒も、ゲイもストレートも関係なく、ゲイがいなければ海兵隊は成り立たないと説きます。しかし、フレンチの切ない思いが報われることはありませんでした。

フレンチが訓練所を卒業し、晴れて海兵隊員になったことを知った母親は、彼がゲイから脱却したと信じて修了式に出席します。しかし、フレンチは母親に、自分はゲイのままだと正直に打ち明けました。怒り出す母親に対し、ロウズ軍曹は、ゲイであろうとなかろうと関係ないとフレンチを庇います。卒業生たちも声を揃え、「海兵隊だ！」と叫び、フレンチを支持します。追いすがるフレンチに、母親は「愛しているけれど、受け入れられない」と告げ、その場を去っていきました。寂しげな表情を見せるフレンチでしたが、海兵隊員として、彼は新たな一歩を力強く踏み出して行ったのでした。

本作の主要キャストには、主人公エリス・フレンチを演じたジェレミー・ポープのほか、ラウル・カスティーヨ、マコール・ロンバルディ、アーロン・ドミンゲス、ニコラス・ローガン、イーマン・エスファンディ、アンドリュー・カイ、オーブリー・ジョセフ、ボキーム・ウッドバイン、ガブリエル・ユニオンらが名を連ねています。

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