インディアナ時間

インディアナ州では、その地理的な位置にもかかわらず、複数のタイムゾーンが使用されています。主に東部時間と中部時間に分かれており、特に夏時間の扱いを巡って、長年にわたり複雑な歴史と多くの議論を抱えてきました。

現在の時間帯区分

インディアナ州は合計92郡で構成されており、そのうち大多数にあたる80郡が東部時間を使用しています。残りの12郡は中部時間に属しており、これらは主に州の北西部と南西部に集中しています。

中部時間を使用する12郡は以下の通りです。

北西部（シカゴ都市圏近郊）: ジャスパー郡、レイク郡、ラポート郡、ニュートン郡、ポーター郡、スターク郡
南西部（エバンズビル都市圏近郊）: ギブソン郡、ペリー郡、ポージー郡、スペンサー郡、バンダーバーグ郡、ウォリック郡

2006年4月からは、州全体で夏時間が実施されるようになりました。

歴史的経緯

インディアナ州のタイムゾーンの歴史は非常に複雑で、標準時が導入される以前の1883年より前は、各町や都市が太陽の位置を基準に独自のローカルタイムを使用していました。これにより、わずか数十マイルの移動でも時刻が変わるという状況でした。鉄道網の拡大に伴い、主要鉄道会社は1883年に全米で初めて標準時を導入し、4つのタイムゾーンを設定しました。州都インディアナポリスは、中部標準時の基準経度（西経90度）により近い位置にありました。

1918年に米国議会で標準時法が制定された当初、インディアナ州は全域が中部時間に分類されていました。しかし、時間の経過とともにタイムゾーンの境界線は徐々に西へ移動し、最終的に現在のインディアナ州とイリノイ州の州境付近に落ち着きました。標準時法には当初夏時間が含まれていましたが、1920年に一旦廃止され、第二次世界大戦中にエネルギー節約のために再び義務化された後、終戦後に解除されるなど、その扱いは定まりませんでした。

戦後もインディアナ州内の時間帯を巡る混乱は続きました。1949年と1957年には、州議会が州全域を中部時間とし、夏時間を廃止または制限する法律を可決しましたが、これらはほとんど施行されず、各コミュニティが独自の時間帯を使用し続ける状況でした。

1960年代に入ると、州議会は1957年の法律を廃止し、コミュニティによる夏時間の使用を許可しました。しかし、州全体で統一された時間運用は行われず、州際通商委員会（後に米国運輸省へ権限移譲）によって州は中部時間と東部時間に分割されました。統一時間法（1966年）により夏時間の全国的な適用が推進される中で、インディアナ州知事は州全体を中部時間に戻すよう請願しましたが、州北西部と南西部は夏時間ありの中部時間を、その他の地域は夏時間なしの東部時間を支持するなど、州内の意見は割れていました。

連邦政府は最終的に州を中部時間と東部時間に分割することを決定し、北西部と南西部の特定の郡を夏時間ありの中部時間、それ以外の地域を通年東部標準時としました。この分割は1972年の州法によって再確認されましたが、東部時間の地域の一部では隣接する大都市圏との関連で非公式に夏時間が使用される状況が見られました。

その後も、いくつかの郡がタイムゾーンの変更を連邦政府に請願する動きが続きました。スターク郡が複数回請願を繰り返すなど、その境界線は安定しませんでした。

1990年代には、この複雑な時間区分が州の経済活動に悪影響を与えているとの認識が広まりました。「インディアナは今何時か？」という混乱は、ビジネスや州間の移動を困難にしていたためです。

長年の議論の末、2005年、当時の州知事ミッチ・ダニエルズの推進もあり、インディアナ州議会は2006年4月2日から州全土で夏時間を導入する法律を可決しました。これは、全米で夏時間を実施する48番目の州となる出来事でした。

夏時間導入後の混乱と再編

2006年の州全土での夏時間導入に伴い、米国運輸省による見直しが行われ、いくつかの郡が東部時間から中部時間へ移行しました。しかし、この変更は新たな混乱を生みました。特に、マーティン郡が中部時間に移されたことで、同郡に跨がる大規模な海軍施設であるクレーン部で時間管理上の問題が発生しました。基地の大部分がマーティン郡にあったため中部時間とみなされましたが、職員の多くが東部時間の地域に居住していたため、通勤や生活に不便が生じたのです。また、南西部の複数の郡ではタイムゾーンを巡る請願と再変更が短期間で繰り返され、これは「シーソー・シックス」と呼ばれる混乱を招きました。

2007年には、多くの郡が東部時間に戻る決定を下しました。その結果、2006年に中部時間へ移行した郡のうち、ペリー郡とスターク郡を除くすべての郡が東部時間に戻り、現在の区分に至っています。

現在の論争

インディアナ州の時間帯に関する議論は現在も続いています。主な論点は以下の通りです。

州全域の単一タイムゾーン化: 州全体を東部時間または中部時間のいずれかに統一すべきだという意見があります。しかし、州の北西部はシカゴ都市圏、南東部はシンシナティやルイビル、南西部はイリノイ州南部やケンタッキー州西部と経済的な繋がりが深く、それぞれ中部時間または東部時間を使用しているため、周辺地域との連携を重視すると現状維持または地域ごとの最適化を求める声も根強く存在します。
夏時間の是非: 2006年に夏時間が導入されましたが、これに対する反対意見も依然として多く聞かれます。特に農家からは、仕事のリズムが太陽に依存していることや、日没が遅くなることによる生活への影響（レクリエーション活動への参加困難など）が指摘されています。また、夏時間導入がエネルギー消費や電気代の増加につながったとする研究結果も発表されており、経済的なメリットに疑問を呈する声もあります。
地理的な不自然さ: 東部時間を使用している州西部の地域では、地理的に本来中部時間に近いため、夏至の頃には午後9時を過ぎても明るく、冬の間は日の出が遅くなるという問題があります。冬の日の出の遅さは、特にスクールバスの運行や道路の凍結防止作業に影響を与えているとの指摘があり、中部時間への移行が望ましいとする意見もあります。

インディアナ州の時間帯に関する包括的な研究としては、トーマスG.シャンクスによる『The American Atlas』（1978年）があり、州内の多様なタイムゾーンの歴史を詳述しています。また、タイムゾーン情報の国際的な標準であるtz databaseでも、インディアナ州の複数の地域がそれぞれ異なるタイムゾーン履歴を持つことがリストアップされています。

インディアナ州のタイムゾーン問題は、単なる時刻合わせにとどまらず、経済、生活習慣、地域間の連携など、様々な側面に関わる複雑な課題であり続けています。

関連項目
インディアナ州の郡一覧

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