インドネシア、トーマス・ワインガイのために

『インドネシア、トーマス・ワインガイのために』（仏語題：Pour Thomas Wainggai, Indonésie）は、1991年に放映されたオムニバスドキュメンタリー映画『忘却に抗って』（Contre l'oubli）に収録されているフランスの短編映画です。1990年に製作され、巨匠ジャン＝リュック・ゴダールとアンヌ＝マリー・ミエヴィルが共同で監督を務めました。

この作品は、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが、良心の囚人の救済と啓発を目的として制作されたテレビ映画シリーズの一部です。ゴダールとミエヴィルは、西パプア（インドネシア領イリアンジャヤ）の独立運動指導者であったトーマス・ワインガイ博士を主題に選びました。

ワインガイ博士は、1984年に西パプアで「西メラネシア共和国」の樹立を宣言し、独立運動を主導しました。しかし、1988年に妻のテルコ・コハラ（日本人）と共にインドネシア政府に逮捕され、懲役8年の判決を受けました。

『インドネシア、トーマス・ワインガイのために』は、ワインガイ博士の投獄という事実を背景に、西パプアにおける独立運動と、インドネシア政府による弾圧の現実を描いています。映画は1990年にパリで撮影され、他の監督の作品と合わせて110分の『忘却に抗って』として放映されました。

映画のスタッフには、監督のゴダールとミエヴィルに加え、脚本・翻訳・朗読を担当したアンドレ・ルースレット、音楽を担当したミノ・シネル、撮影を担当したジャン＝マリー・ファーブルなどが名を連ねています。編集はゴダール自身が行いました。

残念ながら、ワインガイ博士は本作の完成後、1996年に獄中で亡くなりました。しかし、西パプアでの独立運動はその後も続き、2006年には43人のパプア人がオーストラリアに政治亡命を求める事件が発生しました。この事件の指導者は、ワインガイ博士の甥であるヘルマン・ワインガイでした。さらに、2007年には西メラネシアの国旗を掲げた住民がインドネシアの警官に射殺される事件も起きています。

『インドネシア、トーマス・ワインガイのために』は、単なる一人の政治犯の物語にとどまりません。西パプアにおける長年にわたる独立運動とその弾圧、人々の自由と人権、そして忘れ去られがちな歴史的事件を浮き彫りにした、重要なドキュメンタリー作品と言えるでしょう。ゴダールとミエヴィルの視点を通して描かれたこの映画は、見る者に深い衝撃と多くの問いかけを与え続けることでしょう。 西パプアの独立運動とインドネシア政府の対応、そして国際社会の関与といった複雑な問題を、ゴダールとミエヴィルという巨匠監督がどのように切り取ったのか、その点にも注目すべき作品です。アムネスティ・インターナショナルが製作に関わったという点も、この映画の社会的意義を際立たせています。

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