インド国立映画開発公社
インド国立映画開発公社（National Film Development Corporation of India、略称：NFDC）は、インドの情報・放送省の傘下に位置する公的な組織です。その主な役割は、インド国内の映画産業に対する資金的な支援、映画作品の製作、そして国内外への配給を担うことです。
NFDCの起源は、1960年にインド財務省の管轄下で設立されたインド映画財政公社（Film Finance Corporation of India）に遡ります。その後、1964年には情報・放送省の部局へと移管されました。この支援組織設立の背景には、1951年に提出されたパティル委員会の報告書があります。この報告書は、映画製作において、出資者や配給業者が過度に制作内容に干渉する状況を問題視し、芸術的な質の高い映画を生み出すための公的な支援体制の必要性を強く訴えたものです。これを受けて長年にわたり議論が重ねられ、1956年5月に支援組織の設立が決定されたことが、NFDCの誕生へと繋がったのです。
設立当初、インド映画財政公社は商業的な成功が見込める映画への融資を主に行っていました。しかし、1968年に融資を行い、1969年に公開されたサタジット・レイ監督の映画『ソーム旦那の話』（Goopy Gyne Bagha Byne）が批評的にも興行的にも成功を収めたことを機に、その方針は転換されます。以降、より芸術性や社会性を重視する、いわゆる「パラレル映画」への支援を優先するようになりました。
1979年、インド映画財政公社は、映画の輸出促進を担っていたインド映画輸出公社（Indian Motion Picture Export Corporation）と合併することが決定しました。そして、1980年4月、両者の機能を統合する形でインド国立映画開発公社（NFDC）が正式に発足しました。これにより、国内映画への資金支援に加え、国際的な市場でのインド映画のプレゼンスを高めることもNFDCの重要な役割となりました。
NFDCは、特に1970年代から1980年代にかけてのインド映画、中でもパラレル映画の発展に決定的な貢献を果たしました。前身組織の時代から通算すると、NFDCは300本以上の映画を自ら製作したり、製作費を融資したりしています。NFDCが支援した作品群は、国内外の主要な映画祭で高く評価され、数多くの賞を受賞するなど、その芸術的な水準は国際的にも認められています。
NFDCが製作した作品の中で最も広く知られているものの一つに、1982年に公開されたリチャード・アッテンボロー監督の伝記映画『ガンジー』があります。当時の会長D・V・S・ラージュの下で製作されたこの作品は世界中で大成功を収め、得られた収益は、引退した映画俳優たちの生活を支援するための「映画俳優福祉基金」の設立資金に充てられました。これは、NFDCが単に映画を支援するだけでなく、映画産業に関わる人々の福祉にも配慮していることを示す例と言えます。
1990年代に入ると、NFDCによる映画製作本数は減少傾向となりました。しかし、2000年代に入ると再び活動が活発化します。これは、情報・放送省が3億ルピーという大規模な予算を編成したことや、インドを代表する名優であるオム・プリが会長に就任するなど、組織体制の強化が進められたことが背景にあります。
NFDCの歴史には、前身組織の設立に尽力し長年にわたり会長を務めたB・K・カランジア、前述のオム・プリ（2008年-2011年）、そして2012年に就任した著名な映画監督ラメーシュ・シッピーなど、インド映画界の重要な人物が歴代の会長として名を連ねています。
近年、インド政府は映画関連業務の効率化と機能集約を進めています。その一環として、2020年12月には、映画祭事務局（Directorate of Film Festivals）、映画局（Films Division）、インド国立フィルム・アーカイヴ（National Film Archive of India）、インド児童映画協会（Children's Film Society, India）といった複数の映画関連機関の機能をNFDCに統合することが決定されました。この統合は2022年3月に実施され、これによりNFDCは、インド国内における映画製作支援、配給、アーカイブ、映画祭の運営、児童映画、ドキュメンタリー製作など、映画に関する幅広い業務を包括的に担う中心的な機関として、その役割を一層拡大しました。
NFDCは、過去の優れたインド映画、特にパラレル映画を保存・普及させる取り組みも積極的に行っています。2013年には、「Cinemas of India」というデジタルプラットフォームを立ち上げました。これは、1960年代以降に製作された、商業的な成功よりも芸術性を追求した作品の宣伝と普及を目的としています。
このサービスを通じて、長年にわたり一般の目に触れる機会が少なかった多くの貴重な作品が、デジタル修復を経てウェブサイト上でのストリーミングやDVD販売という形で視聴可能となりました。「Cinemas of India」では、『真っ赤なスパイス』『Ek Din Achanak』『Train to Pakistan』『Mammo』『Uski Roti』『Kamla Ki Maut』『27 Down』など、インド映画史において重要な位置を占める多様な作品群がラインナップされています。
このように、NFDCは設立から現在に至るまで、インド映画、特に芸術映画の発展と普及に重要な役割を果たしており、関連機関の統合を経て、インド映画産業の未来を担う中心的な存在となっています。
設立の経緯
NFDCの起源は、1960年にインド財務省の管轄下で設立されたインド映画財政公社（Film Finance Corporation of India）に遡ります。その後、1964年には情報・放送省の部局へと移管されました。この支援組織設立の背景には、1951年に提出されたパティル委員会の報告書があります。この報告書は、映画製作において、出資者や配給業者が過度に制作内容に干渉する状況を問題視し、芸術的な質の高い映画を生み出すための公的な支援体制の必要性を強く訴えたものです。これを受けて長年にわたり議論が重ねられ、1956年5月に支援組織の設立が決定されたことが、NFDCの誕生へと繋がったのです。
設立当初、インド映画財政公社は商業的な成功が見込める映画への融資を主に行っていました。しかし、1968年に融資を行い、1969年に公開されたサタジット・レイ監督の映画『ソーム旦那の話』（Goopy Gyne Bagha Byne）が批評的にも興行的にも成功を収めたことを機に、その方針は転換されます。以降、より芸術性や社会性を重視する、いわゆる「パラレル映画」への支援を優先するようになりました。
NFDCの発足と貢献
1979年、インド映画財政公社は、映画の輸出促進を担っていたインド映画輸出公社（Indian Motion Picture Export Corporation）と合併することが決定しました。そして、1980年4月、両者の機能を統合する形でインド国立映画開発公社（NFDC）が正式に発足しました。これにより、国内映画への資金支援に加え、国際的な市場でのインド映画のプレゼンスを高めることもNFDCの重要な役割となりました。
NFDCは、特に1970年代から1980年代にかけてのインド映画、中でもパラレル映画の発展に決定的な貢献を果たしました。前身組織の時代から通算すると、NFDCは300本以上の映画を自ら製作したり、製作費を融資したりしています。NFDCが支援した作品群は、国内外の主要な映画祭で高く評価され、数多くの賞を受賞するなど、その芸術的な水準は国際的にも認められています。
NFDCが製作した作品の中で最も広く知られているものの一つに、1982年に公開されたリチャード・アッテンボロー監督の伝記映画『ガンジー』があります。当時の会長D・V・S・ラージュの下で製作されたこの作品は世界中で大成功を収め、得られた収益は、引退した映画俳優たちの生活を支援するための「映画俳優福祉基金」の設立資金に充てられました。これは、NFDCが単に映画を支援するだけでなく、映画産業に関わる人々の福祉にも配慮していることを示す例と言えます。
変遷と新たな役割
1990年代に入ると、NFDCによる映画製作本数は減少傾向となりました。しかし、2000年代に入ると再び活動が活発化します。これは、情報・放送省が3億ルピーという大規模な予算を編成したことや、インドを代表する名優であるオム・プリが会長に就任するなど、組織体制の強化が進められたことが背景にあります。
NFDCの歴史には、前身組織の設立に尽力し長年にわたり会長を務めたB・K・カランジア、前述のオム・プリ（2008年-2011年）、そして2012年に就任した著名な映画監督ラメーシュ・シッピーなど、インド映画界の重要な人物が歴代の会長として名を連ねています。
近年、インド政府は映画関連業務の効率化と機能集約を進めています。その一環として、2020年12月には、映画祭事務局（Directorate of Film Festivals）、映画局（Films Division）、インド国立フィルム・アーカイヴ（National Film Archive of India）、インド児童映画協会（Children's Film Society, India）といった複数の映画関連機関の機能をNFDCに統合することが決定されました。この統合は2022年3月に実施され、これによりNFDCは、インド国内における映画製作支援、配給、アーカイブ、映画祭の運営、児童映画、ドキュメンタリー製作など、映画に関する幅広い業務を包括的に担う中心的な機関として、その役割を一層拡大しました。
Cinemas of India
NFDCは、過去の優れたインド映画、特にパラレル映画を保存・普及させる取り組みも積極的に行っています。2013年には、「Cinemas of India」というデジタルプラットフォームを立ち上げました。これは、1960年代以降に製作された、商業的な成功よりも芸術性を追求した作品の宣伝と普及を目的としています。
このサービスを通じて、長年にわたり一般の目に触れる機会が少なかった多くの貴重な作品が、デジタル修復を経てウェブサイト上でのストリーミングやDVD販売という形で視聴可能となりました。「Cinemas of India」では、『真っ赤なスパイス』『Ek Din Achanak』『Train to Pakistan』『Mammo』『Uski Roti』『Kamla Ki Maut』『27 Down』など、インド映画史において重要な位置を占める多様な作品群がラインナップされています。
このように、NFDCは設立から現在に至るまで、インド映画、特に芸術映画の発展と普及に重要な役割を果たしており、関連機関の統合を経て、インド映画産業の未来を担う中心的な存在となっています。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。