インド省

インド省：大英帝国のインド支配を支えた中枢機関

インド省は、かつて存在したイギリスの中央官庁です。18世紀後半から20世紀半ばにかけて、イギリスによるインド植民地支配の中枢として重要な役割を果たしました。その歴史、組織、インド総督との関係、そして廃止に至る経緯を詳細に見ていきましょう。

設立と前身

インド省の起源は、1784年に設立されたインド庁にあります。これはイギリス東インド会社の監督を目的として、当時首相だったウィリアム・ピット（小ピット）によって創設されました。東インド会社はインドにおける広大な権力と富を握っていましたが、その運営には様々な問題がありました。インド庁は、こうした問題に対処し、イギリス政府による東インド会社の監督を強化するための機関として機能しました。

インド大反乱と省の設置

1857年に勃発したインド大反乱は、イギリスによるインド支配のあり方に大きな転換点をもたらしました。反乱鎮圧後、東インド会社によるインド統治は廃止され、イギリス女王による直接統治へと移行しました。この際に、インド庁と東インド会社役員会は廃止され、新たにインド大臣職とインド省が設置されました。インド省は、インドの行政、財政、司法など、あらゆる統治に関する事務を取り扱うようになりました。

インド大臣とインド総督：複雑な権力関係

インド大臣は、ロンドンからインド統治に関する政策や命令を発する立場にありました。一方、インド総督はインド現地におけるイギリスの最高責任者でした。一見、インド大臣が上位にあり、インド総督がその命令に従う関係のように見えますが、実際はそう単純ではありませんでした。

インド総督は、イギリス国王の代理（Viceroy）であり、インド大臣の代理（Agent）ではありませんでした。そのため、両者の関係は時代や個人の性格によって大きく変動しました。官僚的な人物が総督を務めた場合は、インド大臣の指示に忠実に従うこともありましたが、実力者の総督が着任した場合は、インド大臣の影響力が相対的に弱まることもありました。例えば、初代カーゾン男爵ジョージ・カーゾンは、インド大臣を「インド総督府の駐英大使に過ぎない」と揶揄したと伝えられています。

1870年にインドとロンドンの間に電信が開通してからは、情報伝達のスピードが向上したことで、インド大臣のインド植民地統治への影響力は増大しました。

ビルマ省の設置と廃止

1937年、英領インド帝国からビルマ（現在のミャンマー）が分離されました。これに伴い、インド省とは別にビルマ省が設置されました。当初はインド大臣が兼任し、「インド＝ビルマ大臣」と呼ばれていました。しかし、1947年にインドとパキスタンが独立すると、インド省とインド大臣のポストは廃止されました。インド省の役割は、イギリスによるインド植民地支配の歴史の幕を閉じました。

参考文献

辛島昇『南アジア史』山川出版社、2004年
浜渦哲雄『大英帝国インド総督列伝 イギリスはいかにインドを統治したか』中央公論新社、1999年

もう一度検索