インド高等文官

インド高等文官（Indian Civil Service、略称ICS）は、イギリス領インドにおける植民地統治の中核を担った高級官僚制度、およびその官僚たちの総称です。当初、この役職はイギリス本国の上流階級の子弟によってほぼ独占されていました。

19世紀に入ると、自由主義的な思想が広がり、この状況に対する批判が高まりました。それに応じる形で、1850年代前半から競争試験制度が導入され、能力のある人材を登用する制度へと移行しました。これにより、高等文官の地位は、イギリス本国の名門大学を卒業した新興中産階級にとっても、キャリアを築く上で魅力的な目標となりました。

1858年に東インド会社が解散し、イギリス政府が直接インドを統治するようになると、ICSの重要性はさらに増しました。競争試験は非常に難関であり、合格者は限られていましたが、インド人も受験することが可能でした。最初のインド人高等文官は、ノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴールの兄であるサティエンドラナート・タゴールです。その他にも、バネルジーやチャンドラ・ボースといった著名なインド人、そして作家ジョージ・オーウェルの父親もICSに所属していました。

インドの民族主義運動が高まるにつれて、ICSのインド人化は重要な政治課題となりました。1885年に成立したインド国民会議派は、その初期の主張の一つとして、高等文官のインド人化を掲げました。

インドが独立した後も、旧イギリス領インドに属していた国々では、この官職は名前を変えながらも存続しています。例えば、インドではインド行政官（Indian Administrative Service）、パキスタンではパキスタン中央上級官（Central Superior Services of Pakistan）、バングラデシュではバングラデシュ高等文官（Bangladesh Civil Service）、ミャンマーではミャンマー高等文官（Myanmar Civil Service）として、それぞれ制度が引き継がれています。

参考文献

秋田茂　「インド帝国とアジア」『岩波講座世界歴史18』　岩波書店、1998年
辛島昇編　『世界各国史7　南アジア史』　山川出版社、2004年

もう一度検索