インフェクションコントロールドクター

インフェクションコントロールドクター（ICD）

インフェクションコントロールドクター（Infection Control Doctor; ICD）とは、病院などの医療機関において、感染症の予防、診断、治療、そして感染の拡大防止に関わる専門家を指す一般名称です。加えて、日本においては、ICD制度協議会によって認定される専門資格の名称としても用いられています。この資格の日本語での正式名称は定められていないため、「ICD」あるいは「インフェクションコントロールドクター」という呼称が広く使用されています。

ICDは、医療現場における感染制御体制の中核を担う重要な存在です。その主な役割には、院内における感染状況の実態調査（サーベイランス）の実施、感染予防および対策に関する計画の策定、医療従事者への感染対策教育や研修の実施、そして感染症のアウトブレイク（集団発生）発生時の原因究明と拡大防止に向けた迅速な対応などが含まれます。これらの活動を通じて、患者さんはもちろん、医療従事者を含む病院全体の安全確保に貢献しています。

日本におけるICD制度

日本のICD制度は、ICD制度協議会が運営しており、この協議会が資格の認定を行っています。元々は医師の専門医資格の一つとして運用されていましたが、院内感染対策の重要性が高まり、より広範な人材の育成と確保が必要となったことから、現在では医師だけでなく、歯科医師や、特定の分野における博士号（Ph.D.）取得者も条件を満たせば認定対象となっています。ただし、それぞれの保有する免許や資格によって、許される業務の範囲は異なります。例えば、患者さんの診察行為が可能なICDは、医師と歯科医師に限られます。

日本感染症学会が認定する感染症専門医とは別の専門資格である点にも留意が必要です。ICD制度協議会は、日本感染症学会をはじめとする多くの関連学会・研究会によって構成されており、これらの学会・研究会のいずれかに所属していることが資格取得の前提条件の一つとなっています。ICD制度協議会の事務局は日本感染症学会内に置かれ、制度の運営や改訂、感染症管理に関する研究などを行っています。

対象職種とその現状

医師、歯科医師、そして医師・歯科医師以外の特定の博士号取得者がICD認定の対象となります。特に医師・歯科医師以外の者が認定を受けるには、博士号を取得していることに加え、感染症学を専門的に深く学びながら、同時に日常業務を遂行する必要があり、資格取得には相当な時間と労力が求められるとされています。

歯科医師に関しては、外科的処置が多く感染防止の高度な知識と技術が不可欠であるにも関わらず、ICD資格を持つ者が少ないのが現状です。その理由として、ICD資格のみでは直接的な収入に繋がりにくいこと、大学病院などでもICDとして専属で勤務する場が極めて限られていることなどが挙げられます。歯科医療従事者の間にはICDへの関心が高いとの報告もありますが、より専門性の高い歯科の臨床系専門医資格（例：歯周病専門医、口腔外科専門医など）の取得を優先する傾向があり、結果としてICDの大多数を医師が占めている状況です。

2004年時点での認定ICD数は3,948人であり、当時の試算では300床規模の病院に対して約1人の割合でした。

資格取得と更新

ICD資格を取得するためには、ICD制度協議会に加盟するいずれかの学会・研究会に所属し、医師の場合は5年以上の臨床経験、医師・歯科医師以外の博士号取得者の場合は博士号取得後の研究歴など、協議会が定める一定の条件を満たし、所属学会からの推薦を受ける必要があります。資格は5年ごとに更新が必要であり、その間に感染症関連の学会発表、論文発表、講習会参加などによって規定の単位を取得しなければ資格は失効となります。

ICD制度協議会に加盟している主な学会・研究会には、日本感染症学会、日本環境感染学会、日本細菌学会、日本ウイルス学会、日本医真菌学会、日本化学療法学会など、感染症に関連する多岐にわたる分野の団体が含まれています。

関連する専門資格と組織

医療機関における感染対策には、ICD以外にも様々な専門資格やチームが関与しています。代表的なものとして、日本感染症学会が認定する「感染症専門医」があります。

その他の感染対策に関連する主な専門資格には以下のようなものがあります。

感染制御専門薬剤師（ICPH）：薬剤耐性菌対策や感染防御を専門とする薬剤師。
感染管理認定看護師（ICN）：感染対策を専門とする看護師。感染制御実践看護師とも呼ばれます。
感染制御認定臨床微生物検査技師（ICMT）
感染管理歯科衛生士（ICDH）
滅菌技士（第一種・第二種）
感染管理介護福祉士（ICCW）
* 医療環境管理士：医療環境の維持管理や感染予防対策に関する専門家（民間資格）。

また、医療機関内の感染対策を組織的に推進するためには、専門家からなるチームや委員会が設置されています。ICDとICNを中心とする「感染制御チーム（ICT）」や、院内感染対策の方針を決定する「院内感染対策委員会（ICC）」などがあり、これらの連携によって効果的な感染対策が実施されています。イギリスでは、1988年と1995年の院内感染作業部会からの勧告により、ICD、ICN、ICTの配置が進められました。

これらの専門資格を持つ人材や組織が協力し合うことで、医療現場における感染リスクの低減と患者安全の向上に繋がっています。

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