イヴ・ルテルム

イヴ・カミーユ・デジレ・ルテルムは、ベルギーを代表する政治家の1人です。1960年10月6日生まれで、キリスト教民主フランデレン党（CD&V）に所属し、ベルギー北部を基盤として活動しました。

彼の政治経歴において最も注目すべき点は、2度にわたる首相在任です。2008年3月20日から同年12月30日、そして2009年11月25日から2011年12月6日まで、ベルギー首相の座に就きました。しかし、その首相在任期間は、決して平穏なものではありませんでした。

最初の首相就任は、2007年6月の選挙後、国王アルベール2世によって組閣を託されたことに始まります。しかし、フランデレン地域（オランダ語圏）の自治権拡大を主張するルテルムの政策は、ワロン地域（フランス語圏）の政党から強い反発を招き、連立交渉は難航しました。選挙から9ヶ月もの歳月を経て、ようやく2008年3月20日に首相に就任することができました。

しかし、彼の首相としての道のりは長く険しいものでした。連邦制度改革における行き詰まりや、フォルティス銀行の株式売却を巡る訴訟問題など、様々な困難に直面しました。これらの問題により、彼は2008年7月と12月に辞表を提出する事態に陥りました。特に2008年12月の辞任は、司法大臣による裁判所への圧力疑惑が原因であり、大きな政治スキャンダルに発展しました。

その後、2009年7月には外務大臣に就任するも、同年11月には首相のヘルマン・ファン・ロンパウが欧州理事会議長に指名されたことに伴い、再び首相の座に返り咲きました。しかし、フランデレン地域とワロン地域間の対立は依然として根深く、政権運営は困難を極めました。2010年4月には再び辞任を表明、総選挙を経て、暫定的な首相として政権を維持することになりました。この暫定政権は、正式な政権が存在しない世界最長記録となる541日間も続きました。2011年12月6日、ようやく後継政権が発足し、ルテルムの首相としての長期にわたる役割は終焉を迎えたのです。

ルテルムの政治家としての活動は、首相在任期間以外にも幾多のエピソードがあります。2007年7月21日、ベルギー建国記念日に、ベルギー国歌をフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』と間違えて歌ってしまったことは、大きな話題となりました。また、報道関係者に対して強い発言をしたことも、フランス語圏のマスコミから批判を浴びました。

彼の政治的キャリアは、ベルギーの複雑な政治情勢を象徴するものであり、その功績と失敗は、ベルギーの政治史に深く刻み込まれています。フランデレン地域とワロン地域間の緊張関係、複雑な連立交渉、そして予想外の政治的転換など、ルテルムの首相在任期間は、ベルギーの政治システムの脆弱性と強靭性を同時に浮き彫りにしました。

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